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雑感・冬 13

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1月末の雨は春を呼ぶ雨だったのだろう。随分暖かい雨だったようで道路に張り付いていた雪や氷がだいぶ解けて消えた。でもそのあと寒気が入って少し寒くなった。それだけが救いだ。でもさ、もう一寒波欲しいよね。その寒波がいつもの年と同じように来ている北海道の積丹岳で起きた事故は珍しい展開を見せた事故だ。遭難⇒発見⇒下山中に雪庇踏み抜き⇒自力歩行できずそりで搬出⇒途中人員交代のためにそりをハイマツ結んだところ木が折れて滑走し行方方不明⇒発見⇒搬出⇒死亡確認。運がなかったという一言で片付けるにはあまりに……。 警察は最善を尽くしたと結んでいた。

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先日の雨は八ヶ岳に雪をもたらしたようで、西面ジョーゴ沢に入ったら前回入山時と違って滝がほとんど雪に埋もれていた。ジョーゴ沢F1から本谷大滝下までアイゼンを使わずに登れてしまったので、下部が雪に埋まり滑滝部分だけ氷がでている大滝もアイゼンなしで登れるなあ、アイゼンなしで登ってしまおうかなと思ったくらいだが、さすがに下降のことを考えるとアイゼンをつけていた方が楽なのでそんなおばかな記録は作らなかった。そういえばその昔、アイゼンを取りに小屋に戻るのが面倒でアックスと登山靴でアイスキャンディーを登っていたら、柳沢太平さんに目を丸くされたことがある。声もでなかったらしいが、ビブラムが氷に馴染むってこういうことかと、小西政継が言っていた言葉を思い出したものだ――。

今年は冬の初めに細いまま凍りついてしまったので滝はどこも貧弱なものが多いが、昨日の状況では、ジョーゴ沢では大滝とナイアガラと乙女の滝くらいしかアイスクライミングを楽しめそうにない。しかしながら、細身のナイアガラはだいぶ雪に埋まって短かくなっていたし、乙女の滝も今年は傾斜が緩くて登りやすく、あまり登ってみたいとは思わなかった。さすがに日当たりがいいせいか大同心大滝だけは以前に来たときより一回り太っていた。あまり太ると傾斜が緩くなってどんどん登り甲斐がなくなってくるからこちらは痛し痒しだ。

石尊稜はアプローチに雪崩の心配があったが、難なく稜に上がることができた。途中のデブリの感じからすると相当湿った雪が降ったらしい。稜に上がって三叉峰ルンゼを覗くとルンゼはすっかり雪に埋め尽くされている。こちらも一部氷は出ているものの登攀の喜びより雪崩の危険性の方が高そうだ。この先、岩壁、雪稜、岩壁と続く石尊稜をたどりながら、石尊稜ってこんなにやさしかったけかなあと思いつつ主稜線に抜けた。春の兆しを感じる穏やかな天気の中の登攀だったせいか、冬はこれで終わってしまうのかなあと思ってしまうと嘆かわしい。しかし、厳しい寒気がないだけで、登りやすい冬はまだまだ続くはずだ。人がいない山は静かでとてもいい。

夜中にちらりと雪が降って若干木々や壁に雪がついた。赤岳鉱泉の気温は−8℃。少し寒気が戻ってきた。昨日と違って風もある。幸いなことに樹林の中は踏み跡が残っている。そんな道をたどると腰までのラッセルをして中山尾根の取り付きに向かった記憶が蘇ってきた。風とガスのおかげで景色は冬模様だが、今日も冬本来の寒さはない。

昨年は赤岳鉱泉周辺とは縁がなかったから八ヶ岳西面横岳中山尾根も久しぶりの登攀だ。その第一岩壁の正面にたどり着くと目の前に高強度ボルトが打ってある。そこは登ったことがないラインなので今日はこちらを登る。ボルトにどの程度支持力があるのか分からないが、高強度ボルトは見た目だけで安心する。いいこと尽くめのようだが、これはそれと同時に精神力の低下も促すから注意が必要だ。降ったばかりのさらさら雪はアイゼンを履いていても滑りやすく、岩より悪い。2ピッチ目はトラバース部分の草付の草がだいぶはがれてしまったような気がするがしようがないのだろう。雪壁雪稜はさらさらの雪が不安定なステップを強要し、やさしいが若干悪い。だから僕はその悪さを楽しみつつ登る。

「しぶとい山ヤになるために」を連載しているせいか縦横無人に登っていた昔が思い出される。第二岩壁はこんなにやさしかったけと思うが、それもこれもやわらかい岩にスタンスが刻まれているせいだ。ガイド登山が盛んになってからというもの年々岩登りルートがやさしくなっていった気がする。今日は岩より雪の方が悪いが、クライミングにアクセントがついていい。

八ヶ岳は冬山のゲレンデと捉えていた昔、冬季登攀を始めた新人時代の一年目こそ八ヶ岳西面の登攀を第一目標にしてここを訪れたが、二年目以降、八ヶ岳は谷川岳や後立山、穂高岳、甲斐駒ケ岳などほかの山域の天気が悪くて登れないときの代替案としての存在価値しかなかった。というより、当時も今もそんな存在でしかないような気がする。だからこそガイド山行を組みやすいという側面があるのだ。特に谷川岳の場合は大雪で電車が高崎駅や新前橋駅で打ち切りになってしまい、土合駅どころか水上駅にさえ入れないときがたびたびあり、そんな折には決まって八ヶ岳に転戦して登っていたのだ。八ヶ岳では全天候で行動していたので、そんな日々を思いだすと今日のようなちょっとガスって風があるこんな天気はかわいらしい。

再び雪のミックスを適当に登って最後に第三岩壁を登り、稜線に抜ける。西面は風があって寒かったが東面は主稜線に風がさえぎられて暖かい。陽だまりで休憩して昨日同様地蔵尾根を下山する。地蔵尾根は風で踏み跡が消されてちょっと悪い。いつだったかこの尾根で低体温症になり、救出されたが、その後死亡が確認された人がいた。森林限界のすぐ上の出来事だったそうだが、こうした場所で低体温症になるとはよほど疲れていたのか? そんなに疲れていたのなら何も無理して登るk戸などないのに――。そんなふうに思ってしまう。登るのも下るのも自ら判断することができるのだから。毎日動いて比較的充実した三日間だった。昔の行動をふりかえるとこの程度の行動はかわいいものだ。

人がいない平日はどのルートでも登るのがとても楽だ。山なれた人なら美濃戸から早朝出発で登ることができる。昔と今――。取り組み方も登り方も様変わりだが、どちらも楽しい。

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まさかこの岩壁が登れないとは思わなかった。登れなかった原因は時間の欠如だが、こればかりはどうしようもない。再挑戦を心に期してウォーカー・シタデルを離れるところで番組は終わったものの、映像はまるで船で帰っていくように見えた。しかし、実はスノーモービルが引く橇に乗って帰るところなのであった。氷が解けないうちに帰る――。登攀にはさまざまなタイムリミットがあるのだろうが、まさかこの山が登れないとは思っていなかったからよけいに悔しいし、残念である。山登りでは、殊に登攀では技術と体力があっても登れないという場面に何度も接してきた。実際技術と体力は参加者全員がガイドをやっているくらいだから皆に在るはずなのに、結果は散々だった。アルパインガイドとアルパインクライマーはまったく違った資質をもっているのだろう。結果が示すことはきわめて単純な事実なのかもしれない。面白いよな。実は登攀能力を問われる大岩壁の登攀は登攀技術や体力があるだけではどうしようもない世界なのである。山は皆が考えているよりずっと奥深いものなのである。でもさ、たとえ障害があってもこれより大きい壁が登れるんだよ。そう、登ろうという気持ちがありさえすれば、どこでも登ることができるのだ。

体調がよくなってくると発想も変わってくる。心と体は面白いくらい連動しているのだとわかる。そうでなければ人間はPTSDなんぞにはきっとならないだろう。心と体が連動しているからこそ思い出しては精神を圧迫されるのだ。昨日だったか、僕のエベレスト登山時のエピソードを小耳に挟んだ。事の前後関係を考えると何だか面白くなってしまったのだが、そんな言葉が本当に書かれているのか今度その本のページをめくって調べてみよう。確かその本は持っているはずだから。

青梅市梅郷の梅の公園で梅の花が咲き始めた。まだ紅梅ばかりだが、いよいよ本格的な春が到来するようだ。九州ではモンシロチョウやキチョウが飛んだらしい。この暖かさが続くと月末には青梅市でもモンシロチョウが飛びそうだ。2月8日だぜ、まだ。そういえば今日ブユに刺された。春はすぐそこまで来ている。

「しぶとい山ャになるために」って誰が読んでるの? Yガイドの質問の答えは僕自身にも分からない。実際のところこの話が面白いと思われているのかどうかさえ分からない。だけどこの連載は自分自身の考えをまとめたり、自分自身の新人時代を総括するのには役立っている。実はこれらの山行は僕が山を登り始めて二百日あまりの間に行ったものなのだが、誰がそう思うだろう。これまで書いてきた山行の数々を見るとにわかには信じられないかもしれない。しかし、それは本当だ。今年いっぱいは書き続ける話の数々は、実際に僕が山を登り始めて二百日足らずの間に行ったものなのである。こうした山を登り始めてさいたま谷峰山岳会に入り、山学同志会に在籍した一年間に行った登山や登攀が基礎となってその後の登山や登攀につながっているのだ。ところでYガイドは始めの十行を読んだだけでいやになって読むのをやめたというが、その割にはよくもまあ昔の話をあんなに詳しくかけるもんだと言っていたから、彼もだいぶ読んでいるらしい。まあ僕にはどうでもいいことだけどちょっと素直じゃないなあ……。原稿は今年いっぱいは書き続けるつもりだから機会があったら読んでみてよ。山登りって、何も考えていないようでけっこう考えているんだよね。だって考えないと簡単に死んでしまうもの。

最近アイスアックスのピックを研磨した。もともと力と技があるから研かなくてもよく刺さるので今までまったく研いていなかったのだが、研磨したら刺さりがよくなりすぎて手に負えない。一回二回のアイスクライミングじゃ微妙な使い回しが身につかず、つい深く刺さってしまうことがある。でも研いたおかげでこれまでにない微妙な使い回しができるようになりつつある。このアックスを使ってミックスを登ってみたらピックを傷めないようにするために登り方そのものが変わり、アルパインクライミングに対する考え方そのものも大きく変わってきた。それを考えるともっと早く研いておけばよかったかなと思う。けっこう登っている割にピックの長さは、このアイスアックスを使い始めた当初とそれほど変わっているわけではないことに気づく。たとえ変わっていたとしても一ミリ二ミリ程度で、五ミリと違わないだろう。このタイプのアイスアックスの出現がアイスクライミングの登り方そのものを変えたのだが、ピックの研磨は岩登りに対する考え方をも変える。ほんのちょっとした変化に過ぎないのになあ? もともとこの身に秘められた自分の分身は危険なことが大好きらしいからちょっとした変化にも敏感だ。そのちょっとした変化が変なというか過激な登攀につながっていくんだよな。何だかこれまで経験したことがない難しい登攀をしてみたくなった。歳なんだからおとなしくしろと言われてももともと危険なことが好きな僕にはそんなことはできない相談かもしれない。来年気合入れてどっか登ってみるか。

何だかどこかに登りに行きたいという気持ちがでてきた。体がだいぶよくなってきた証拠なのだろうが、体は正直だ。膝が痛くてたまらないときは掛け声をかけてもかけられてもそんな気持ちは起きなかったのだから。そんな気持ちのときは危ない。何しろ単独でも出かけて行ってしまう人だからなあ。

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