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Explorer Spirit   「木本哲」の世界 No.3


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未踏の氷壁 初登攀――20m、X+
マルチアイス3P

予想外に立派な氷瀑が現れた。
空中を垂れ下がっているところを見ると、
どうやら90度はありそうだ。

僕にとって氷壁や氷柱はもはや鑑賞の対象ではない。
たとえそれが鑑賞の対象だとしても、
氷瀑を見る目は、
それが登れるものかどうか、
どこを登るのがいちばんいいか――。
そんな点に集中してしまう。

さらに一歩進んで氷瀑の傾斜はどうか、
実質的な登攀距離はどれくらいか、
そんな点に行き着く。

この氷瀑が登れるかどうかは疑う余地はない。
どこを登るかという点だけが問題だ。
初めて見える氷瀑の情報を他者に提供することは憚られる。
写真一枚でさえ経験を積んだ者には大きな情報源となるからだ。
自らルートを切り拓いて行く力がある者にはあそこに氷柱がある程度の情報で十分だろう。

氷瀑でも、岩でもミックスでも、たとえ山であってもオンサイトで登るのがいちばん面白い。
情報がなければ真剣に地形図を見るし、ルートもよく見てどこを登ろうかと考える。
余裕があればいちばん難しそうなルートを、余裕がなければいちばん易しそうなルートを選ぶ。

情報がなければ、次にどんなパートが出てくるのか想像すると、ときには不安が起こり、恐怖心が募るが、
それが山登りの大きな楽しみを創り出していることは疑いようがない。

わからなければ少しでもわかろうと全身全霊を傾ける。
あらかじめ状況を知っていれば登るのは楽だが、不安や恐怖心が薄れる分だけ面白さが減る。
それは達成感が小さくなると言いかえることもできるだろう。

最近はアイスクライミングをするのに自分自身のためにリーシュを持ち歩くことはない。
リーシュレスが可能なアイスクライミングツールが出てからずっとそんな調子で登ってきた。
だから僕自身が僕自身の興味のために氷瀑をリードして登る場合はリーシュレスクライミングになる。

垂直のリーシュレスクライミングは肩と握力に大きな負担がかかる。
だからアルパインクライマーといえどもフリークライミングに長けていないとノーテンのリードは難しい。
それはプロテクションをとる行為に端的に現れてくる。

プロテクションをとるときはどうしても片手で体重を支えなくてはならないから握力のなさはてきめんに恐怖として発現する。
そしてそれはやがて墜落の予兆を育む。
もし墜落したら……。

アルパインクライミングは、アイゼンをつけていて落ちれば、よくて捻挫、悪くて骨折が当たり前の世界である。
落ちるという現象は、人里離れたエリアで行うことが多いアルパインクライミングでは、また、致命的な事故に繋がりかねない現象である。
そこにアルパインクライミングの難しさがある。

その一方で、落ちるという恐怖心は安易なクライミングスタイルを選択させる大きな要因となる。
それは妥協を生み、そのスタイルこそが正しい登り方だと思わせる。

確かにそれも正しい登り方だ。
もちろんそうには違いない。
しかし、登り方はそれ一つではない。

甘い誘惑に嵌るのは、気分的にも技術的にも楽だが、そんなことをしていては技術力も精神力も伸びない。
実際のところ、落ちるという恐怖心に打ち克つことができなければ、自身のアルパインクライミングの限界を伸ばすことは難しい。
もしそうなら今以上の発展は期待できない。

アイスクライミングはどんなに難しいルートであっても困難度はしれている。
前傾壁から90度、80度、70度と傾斜が落ちればすぐに楽になる。
それにいざとなればアイスクライミングツールにぶら下がることができるという状況も精神的には楽である。
それに比べれば傾斜の強い岩をランナウトして登らなければならない状況ははるかに厳しい。

フリークライミングからアイスクライミングへ。
アイスクライミングからミックスクライミングへ。
昔からクライミングの流れはそんな方向にある。
アルパインクライマーは歩行も含め、これらすべての登山をこなせなくてはならない。

小さな氷瀑だったが、ふとしたアイスクライミングへの興味がアルパインクライマーはどうあるべきか思いださせてくれた。

木本哲プロフィール(「白夜の大岩壁・オルカ初登頂」のページから)……公開を取りやめています
僕のビッグ・ウォール・クライミング小史……公開を取りやめています
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しぶとい山ヤになるために=山岳雑誌「岳人」に好評連載中……登山開始から山学同志会在籍一年目までの山行で学んだこと感じたこと
自己紹介(木本哲登山および登攀歴)……山学同志会在籍一年目に培った技術を基礎として実行した初登攀〜第3登を中心にまとめた
Satoshi Kimoto's World(木本哲の登攀と登山の世界)……海外の山もさまざまなところへ登りに出かけました

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