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ケニア山やキリマンジャロ山などアフリカの高峰を登りに行ったとき、ひょんなことから日本学術振興会の関係者の方にお世話になった。彼らはケニア国内や周辺諸国に研究調査に出かけるときにナイロビの事務所を経由して出かけるのである。さまざまな研究の拠点となるナイロビの事務所は、文化人類学者や民俗学者、動物学者や言語学者といった人たちが利用する。対象としているフィールドはそれそれ異なるが、入れ替わり事務所を訪れる人から面白い話が聞けた。登山活動の期間から見れば彼らとのふれあいはほんの一瞬に過ぎないけれど、それが僕に与えた影響は大きい。

そんな経緯があってかさまざまなフィールドワークを行う研究活動にも興味がある。研究者にとってはそこで交わされている言語や人々の暮らしぶり、地形や地質や動植物の生活や行動様式そのものが研究対象であり、研究することが仕事である。それらは人間社会の形態や人間の行動を分析するのに役立つ。

そんなことを考えると登山そのものも研究対象になっていいような気がするが、登山学というのは聞かない。しかし、棒見学というのは聞いたことがある。そこでの研究は閉鎖的な環境での行動や心の動きといったものが対象になるかもしれない。戦略的な行動や効率といったことも対象となるかもしれない。環境順応能力などは格好の研究対象だろう。

成功と失敗、中でも登山活動に伴う遭難事故はまた格好の研究対象かもしれない。登山では遭難は死と密接に結びついている。危険が多い自然の中で安全をどう扱うかは重要な問題である。しかし、遭難事故の経緯を誰に憚ることなく発言するのも議論するのも難しい。訴訟という問題があるとなおさらである。遭難事故は知識だけではなく、技術や体力とも密接な関係があるから遭難者や遭難事故を題材に取り上げる場合は 研究者にどのくらいの登山経験があるのかという点も問題になってくるかもしれない。

日本の場合、死者には鞭打たないという発想が根強く、発生した遭難事故に関する正確な情報を集めにくい。情報が集めにくければもちろん分析もしにくい。山の遭難は状況によっては事件に発展するかもしれないという側面があるので遭難事故への対応は慎重な姿勢が必要になる。だが安全に登山活動を行うには登山者自らが率先して原因を追究する姿勢が必要なことは明らかだろう。

同じような遭難事故は起きて欲しくないものだが、残念ながら繰り返し起きる。前例が登山者皆の経験として生かされる機会が少ないからかもしれないが、そこでは死者を鞭打たないという発想が遭難原因を包み隠してしまい、事故の詳細な情報がなかなか表に出てこないという現実がある。そういう現実は遭難事故に対する検証が甘いという姿勢を創り出す危険があり、遭難事故の低下につながらない怖れがある。

一見よく書かれているようでいながら、実は遭難原因を特定していない事故報告書もよく見かける。事故報告書を読んでいると、ときおり事故の原因はそんなところにはないだろうと思うことがあるが、そんなことには誰も気づかないのかもしれない。実際は気づかないというより目をつぶってしまうので、貴重な経験を活かせないというのが現実なのだろう。遭難事故がたびたび起きるのはごめんだから、こと遭難に関しては突っ込んだ研究をしたいものである。

ここでは遭難事故ではなく、登山や遭難以外の純粋に学術的、文化的なな研究について考えてみる。

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