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Explorer Spirit 木本哲

グリーンランド・白夜の大岩壁<オルカ初登頂>

ハイビジョン特集「白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻」 <NHKBShi(BS-9チャンネル)
[本]2007年11月18日(日)19:00〜20:49(109分)
[再]2007年11月26日(月)14:00〜15:49(109分)
[再々]2008年1月31日(木)10:00〜11:49(109分)
[再々々]2008年6月30日(木)9:00〜10:49(109分)
DVD「白夜の大岩壁 クライマー山野井夫妻」(109分) 2008/5/23 発売
[再々々々]2008年9月24日(水)昼間(109分)
2009年2月からNHKオンデマンドのサイトで視聴が可能になります
[再々々々々]2009年2月26日(木)09:00〜10:49(109分)

NHKスペシャル「夫婦で挑んだ白夜の大岩壁」<NHK総合(東京は1チャンネル)>
[本]2008年1月7日(月) 22:00〜22:59(59分)
[再]2008年1月9日(水)午前 【8日火曜深夜】0:10〜1:09(59分)
[再々]2008年4月17日(木)
午前 【16日水曜深夜】0:55〜1:54(59分)
[再々々
]2008年6月14日(土) 午後7時45分〜 BS‐2「ザ・ベストテレビ」内
[再々々々]
 「放送文化基金賞・本賞受賞記念」2008年10月13日(月・祝日)22:00〜22:59(59分)延期
[再々々々]
 「放送文化基金賞・本賞受賞記念」2008年10月20日(月)22:00〜22:59(59分)確定
[再々々々々]2008年12月29日(月)13:30〜21:00 BS‐2「あなたのアンコールスペシャル」内

  1. 財団法人 放送文化基金 |表 彰|

白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻/NHK取材班著/1680円(税込)/(NHK出版)
感謝されない医者 ある凍傷Dr.のモノローグ/金田正樹著/1600円/山と渓谷社(今回のクライマー3人の手足指切断記)
グリーンランド・白夜の大岩壁<オルカ初登頂>/木本哲著
白夜の大岩壁に挑む クライマー&クリエイター木本哲/木本哲著
夫婦で挑んだ白夜の大岩壁/木本哲著

しぶとい山ヤになるために=山岳雑誌「岳人」に好評連載中

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白夜の大岩壁に挑む アルパインクライマー&アルパインガイド&クリエイター木本哲 3 ヘッドウォール 
(アルパインクライマー&アルパインガイド&クリエイター木本哲のページ公開終了です。最下段の太字ページのみ公開しています)


ヘッドウォール

ヘッドウォールは一見かなり傾斜が強いように見える。
しかし、すでに正面からだけではなく、右からも左からも偵察済みだ。
だから見た目の傾斜に騙されることはない。

もちろん、壁の大きさもわかっている。
壁の真下から見ても覆いかぶさってくるような威圧感がない壁だからおそらく難易度は手ごろだろう。

このような傾斜でも1000mの標高差があったら楽しいのだが、
こいつはせいぜいその三分の一しかない。
だから、気持ちは楽だけど、ちょっぴり物足りない気がする。

ヘッドウォールを登る大まかなラインはすでに決まっている。
凹状部をたどってコルに抜けるのだ。
見た目傾斜は緩い。

偵察時の写真には壁に雪がたくさんついていたから、
実際のところ、壁の中間部はかなり傾斜が緩いに違いない。
大きなテラスもたくさんありそうだった。
だから、ポーターレッジを持っていくのを止めることにした。


 

ルートの四分の一ほどを占めるヘッドウォール下部。ここがもっとも傾斜が強いパートだが、意外に傾斜がなく登りやすいピッチが多い。こんな傾斜の壁が下から上まで続いているのがバフィン島サムフォードフィヨルドのウォーカー・シタデルだ。もっともウォーカー・シタデルはこれより傾斜が強く、登攀条件も悪い。
見えている部分は標高差350〜400mくらい。
人が登っていると落石が起こるが、普段はあまりない。
岩は意外にしっかりしていた。
壁が寝ているから落石があると石が壁に当たって跳ねるので落石がくることやその方向がわかる。
バフィン島ウォーカー・シタデルの岩壁では、壁が立っていて落石がかなり上空から空を飛んで落ちてきたが、
いちばん危ない場所は取り付きの氷床付近だった。
壁の中で落石がくることはほとんどなかった。
落石が近づくと、石が空を切って飛んでくる音は聞こえるのだが、どこを落ちているのかまったくわからなかった。
少なくともこの三倍の高さとこの壁以上の傾斜を持ってそびえており、圧倒的だった。
この岩にはそうした威圧感は感じられなかった。
もっとももしこの壁がバフィンと同じような高さと傾斜を持っていたら、
こんなに壁の取り付きに近いところにテントを張ったりはしないだろう。


 

上部キャンプの楽しみ

上部キャンプでの楽しみはヘッドウォールの登攀を夢想しながら眠りにつくことである。
この岩壁の取付からコルと名づけた稜線に出る地点までの標高差は350メートルほど。
この壁をいったいどういうふうに登ろうか――。

毎日壁を見ていると時間によってさまざまな顔を見ることができる。
やがて壁の細部が理解でき、ルートやルートの内容も自ずと見えてくる。

どんな壁にも弱点はある。
一つのルートが見えると、他のルートを探すのも容易だ。
ルートは取り方によって難易度をさまざまに変えることができる。

目の前に広がっているのが未踏の岩壁だけにあれこれ思いをめぐらすのは楽しい。
壁を見つめていれば、僕たちが登ろうとしているルートだけではなく、さまざまなルートが浮かびあがってくる。
今回は無理としても、次はこう登ろう。
こうしたルートをたどる方が楽しそうだな。
そんな考え方が岩に興味をもたらし、さらに細部に目を向けさせる。

 

あぶり出し

たとえ白夜であっても太陽は地平を巡る。
それに伴って影も動く。
光と影は移動しながらさまざまなルートの存在をあぶりだす。

面白そうなラインはいくつかある。
見る目を変えれば違うルートが見えてくる。
思いがけないところにルートを発見すると嬉しくなる。

目指すルートは毎日見つめているうち自ずと細部が定まり、初めに抱いていた不安は消え失せる。
登攀の成功は疑うべくもない。
これまでのさまざまな経験がそう囁きかける。

壁があまりに小さすぎる……。
切り立った部分に難しさがない……。
あとは天候が味方をしてくれるかどうかだけ……。

しかし、雪が降っても、雪が解けて岩に凍りつきさえしなければなんとかなるだろう。
極北の夏の岩肌はバフィン島の登攀からは考えられないほど、想像以上に温かい。
ウォーカー・シタデルの登攀時のようにクラックの中がたとえ冷蔵庫のように冷えても問題はない。
でも、ギャンゾンカン南東壁を登ったときのように
雪で覆われてべちょべちょになった岩壁をフリーで登るのはいやだな――。
雪と 雪解け水のせいでホールドに置いた足も、
ワイドクラックに突っ込んだ体も
それを支える手も滑りそうだったし、
手は手袋をつけていても異常に冷たくてたまらなかったから、そうも思う。

草木が教えてくれる季節は秋も深まってきたという感じだ。
だから、天気が崩れて空から何か降ってくるとすれば氷雨か、あるいは雪かもしれない。

 

心は面白い。

小さな壁だ――。
この岩壁の基部に降り立って見上げたときの
この標高差1200mあまりの大岩壁に対する第一印象がそうだった。
この岩壁との勝負はこのときすでについていた。
そういう気持ちに支配されていたせいかヘッドウォールも小さく見える。

実際にその足元に立ってみると、やはり小さな崖という感じしかない。
せめてヘッドウォールくらいの傾斜の壁が大岩壁の基部から頂上までまっすぐに続いていてくれていたら……。

グレート・トランゴはでかい壁だった。
200mの岩壁、300mの氷雪壁、1500mの岩壁という構成の大きな標高差を持つ切り立った岩壁だ。
しかも6000m峰にかかる岩壁だ。
空気中の酸素の量はここの二分の一以下。
こことは比べ物にならないほど岩壁は大きく、空気が薄い。
そんな中で激しいフリークライミングとエイドクライミングをする。

ウォーカー・シタデルもでかい壁だった。
傾斜が強い標高差1230mの岩壁。
でも標高はわずか1500mほどしかない小さな山だ。

しかし、そんな小さな山が備えている条件は一流だった。
時間とともに太陽が壁の反対側に回り、日がかげると、空気は一気に冷え込む。
もともと空気が温まっているわけではない。
そこではただ降り注ぐ日差しが直接体に暖かさをもたらしているのだ。
天気がよければ岩の表面は次第に暖まっていくが、日がかげるとすぐに冷め始める。
やがてホールドをつかんでいる手は感覚がなくなり始める。
ホールドをつかんでいる指先は冷えてじんじん痛む。
つかんでいるのかいないのかわからない手で難しい岩を登っていかねばならない。
これに風が加わると手が冷えるのは早い。
暖めても暖めてもすぐに冷えてしまう。

クラックは割れ目の奥まで日が差し込まない。
だから、クラックの中は一日中冷蔵庫の中のように冷え切っている。
そこではジャミングをして体を支える手は、墜落に耐えてギアを選んでいる間に冷えてくる。
ギアを選ぶのに時間がかかれば、いったんジャミングしている手を冷たさから開放するために入れ替える。
疲れるからではなく、冷え切ってしまうから入れ替えるなんてなかなか経験しないことだ。
バフィン島のウォーカー・シタデルの岩肌はこことは比べ物にならないほど冷たかった。

登攀の難しさは岩壁の標高差だけで決まるわけではない。
まして標高だけで決まるわけでもなければ、緯度だけで決まるわけでもない。
しかし、岩壁に傾斜がなければ、威圧感もなければ、困難度も低い。
そんな要件が岩壁を実際よりはるかに小さく感じさせる。

 

ルート

壁の最初の三分の一、ヘッドウォールの出だしの部分はクライミングを楽しめそうだ。
しばらくはコーナークラックに沿って登ることができる。
傾斜が手ごろだから思い切ったクライミングができるだろう。

その先には本当に垂直に思える壁が控えている。
クラックは黒い色が鮮やかに見えるので濡れているのだろう。
濡れているクラックを登るのはとても悪そうだが、そこは左から回り込んで登れるだろう。
光と影が作るラインはそうできることを示していた。
そこらあたりの壁にはかなり大きなテラスがたくさんありそうに見える。
実際にそこは雪が積もってテラスがあるように見えていたところだから傾斜は落ちるに違いない。
下から岩壁の細部は見えない。 それだけに中間部の岩は傾斜が緩いと考えられる。

その先、上部は少し傾斜が出てくるが、クラックが見えている。
その一段下にはチムニーがあるように見えるが、
左の方にクラックラインが隠されているのでチムニーを登らずとも上部のクラックにつなげそうだ。
どちらのクラックもクラックの幅だけが問題だ。

最後は抜け口のコルへ向かってルートは右上に進んでいくので傾斜はそれほどでもないだろう。
下から細部は見えないが傾斜は明らかに落ちている。
ここからコルまでの行動は特に問題はなさそうだ。

問題はその先だ。
当初の計画通り頂上稜線右側のルンゼに入って登ることになったらぜんぜん絵にならない。
いくら頂上を目指している姿だといっても ガラ場を登っている姿など撮ってもしようがない。
そこはどうしても頂上稜線を登るようにしなければならない……。

頂上稜線の中間部は写真では傾斜が強いフェースのように見えた。
しかし、1ピッチくらい、あっても標高差100メートルくらいだから、行けばなんとかなるだろう。
細部が見渡せないここで心配してもしようがない。

その先は最後の岩峰が立ちはだかっていてじゃまだが、
偵察時の写真によれば少なくとも岩峰の基部を左に回り込ずことができるはずだ。
左に回りこんでルンゼ状の岩を登れば最後の小さな垂壁に出る。

最後の垂壁は小さい。
だから問題はない。

頂上に着くまで天気が持つといいのだが……。

 

大好きな世界

そろそろまぶたを閉じた方がいい。
思いは尽きないが、目を開けていればいつまでも大好きな世界が見える。
もう眠る時間はとっくに過ぎている。
白夜だから一日中行動できてしまう……。
そんな場所では意識して寝ないと徹夜ならぬ徹白夜になってしまう。

 

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白夜の大岩壁に挑む アルパインクライマー&アルパインガイド&クリエイター木本哲 3 ヘッドウォール 

自己紹介(木本哲登山および登攀歴)
木本哲プロフィール(「白夜の大岩壁・オルカ初登頂」のページから)
僕のビッグ・ウォール・クライミング小史
Satoshi Kimoto's World(木本哲の登攀と登山の世界)
しぶとい山ヤになるために=山岳雑誌「岳人」に好評連載中

Greenland東海岸の岩場について情報をお持ちでしたらお寄せください。ご意見もこちらで承ります。

このテーマの一般公開は終了しています。現在は下記青太字ページのみ公開しています。関連本はNHK出版から1月31日発売予定。

グリーンランド・白夜の大岩壁<オルカ初登頂>

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