二人でミステリーを書こう  ミステリー雑学百科1

 男の友人二人の合作コンビの岡嶋二人が『焦茶色のパステル』で江戸川乱歩賞を受賞、さらには第5回の横溝正史賞に石井竜生、井原まなみ夫妻の『見返り美人を消せ』が選ばれるなど、日本でも合作で成功した作品がいくつかある。
 しかし、何といっても有名なのは『エジプト十字架の秘密』や『Yの悲劇』などなぞ解きの名作で知られる本格派の世界的巨匠エラリー・クイーンの例だろう。
 エラリー・クイーンは、1905年に米国ニューヨークのブルックリンで生まれた、フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという合作者のペンネーム。ダネイは広告会社のコピーライター、リーは映画会社の宣伝部に勤めていたが、いとこ同士で仲が良かったし、会社が近かったので、ほとんど毎日、昼休みに会っていっしょに食事をしていた。そして、ある日、懸賞小説にミステリーを合作して応募することを思いついたのである。
 その成果が国名シリーズの第1作『ローマ帽子の秘密』(1929年)で、その後二人は、バーナビイ・ロス名義でも『Yの悲劇』など4部作を発表、一躍有名になった。
 茶目っ気たっぷりの二人は、1932年にコロンビア大学の講師を頼まれたとき、リーが黒い覆面姿で講壇に登場、デパートのサイン会もこの姿で通して話題を呼んだ。
 全国各地で講演会が催されたときは、リーがクイーン、ダネイがロスの役を同じような黒覆面の姿で演じ、お互いに難事件のストーリーを出題して解決に腕を競い合うというお芝居はやんやの喝采を浴びたらしい。
 合作の試みとしては『悪魔のような女』などの名作で知られるフランスの推理文壇の大御所、ボワロー・ナルスジャックが友人同士、スウェーデンの警察小説マルティン・ベック警視シリーズのマイ・シューヴァル、ペール・ヴァールーや、日本では余り知られていないが出版社の夫妻が活躍するシリーズを書いている米国のロックリッジ夫妻はいずれも夫婦である。
 世界でも初めてというのが、『獅子座』で知られる藤雪夫、藤桂子親娘という例がある。 読者としては、合作がどんなふうに行われるかいちばん興味をそそられるところだが、一番多いのが、一人が筋立てやトリック、登場人物などを考え、もう一人がそれを小説化するというやり方、エラリー・クイーン、ロックリッジ夫妻、岡嶋二人などはこの方法を採用している。
 マイ・シューヴァル、ペールヴァールーの場合は、各章を二人で交互に書き進めるというが、全体の構想は当然二人で話し合って決めるのだろう。石井竜生、井原まゆみの場合は、夫が捜査陣の動きや犯罪ストーリー、妻が女性心理やファッションなどそれぞれお得意の分野で腕を振るうのだという。
 合作のつらいところは、片方の作者が亡くなったり、合作の解消ということが起こることだろう。
 日本の最も優れた合作者岡嶋二人は1989年にコンビを解消、井上夢人が独立して活躍しているが、一方の田奈純一は作家活動をしていない。
 それはともかく、あなたも友人や恋人とミステリーをお書きになりませんか。


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