ミステリーが学べる大学 ミステリー雑学百科30
好きなミステリーを専門的に勉強できる大学があるだろうか。
そんな結構な大学があるものかと思われるかもしれないが、ミステリーやSFの研究が盛んなアメリカには本当にあるのである。
オハイオ州のボーリング・グリーン大学がそれ。
この大学には1967年に設立された大衆文化研究センターという機関があって、推理小説をはじめとする大衆文学、流行歌、映画などの大衆文化を総合的に研究している。
中でも、ミステリーの研究が一番盛んである。
少し前のデータだが、同研究センターは4人の専門研究員、10人の準研究員、その他6人の職員で運営されているといわれ、季刊の機関誌ジャーナル・オブ・ポピュラー・カルチャーを発行しているはか、四万冊の専門書と四万枚のレコードを備えた特別図書館を持っているという。
米国の大学では、ミステリーやSFの単独講座を設けている所は数え切れないほど多い。
しかし、このポーリング・グリーン大学のようにミステリーをはじめとする大衆文化を長期にわたって専門的に研究している大学は珍しい。
特に注目されるのは、同大学の出版活動だ。日本でも邦訳されて話題になったフランシス・ネヴィンズ・ジュニアのエラリー・クイーン論「王家の血統」をはじめ、ラリー、ランドラムウ共編の「探偵小説の諸相」という評論アンソロジー、さらには、ロス・マクドナルドに関する長編評論をまとめたピーター・ウォルフの「夢を生きる夢想家」などミステリーに関する評論、研究書がずらり。
また、名門カリフォルニア大学のサンディエゴ分校は、ユニークな古典的なミステリー全集の刊行を企画している。「夜の熱気の中で」など、黒人探偵ヴァージル・ティッブスの生みの親として知られる作家のジョン・ボールを編集主幹にすえて、1976年にはその番外編として、17人の専門家のミステリー評論を集めた「ミステリー・ストーリー」を出している。
また、大学の図書館がミステリー作家の原稿や資料を所蔵する例が非常に多い。
たとえば、エラリー・クイーンやダシール・ハメットの原稿コレクションは、テキサス大学の人文科学研究センター、レイモンド・チャンドラーのものは、カリフォルニア大学研究図書館付属の特別蔵書部、ロス・マクドナルドのものは同大学図書館といった具合。
日本でも先ごろ亡くなった作家の天藤真が千葉のある大学でミステリーの講座を受け持ったことがあるが、目下のところはミステリーは現代文学の片隅に置かれているだけで、単独の講座としては常設している所は余りないのが実情だと思う。
一昔前、京大の人文科学研究所が盛んに大衆文学の研究をしていたが、現在は少々下火の感がある。全国の大学にはミステリーの同好会が多く作られているのだから、一つくらいボーリング・グリーン大学のように専門的にミステリーが学べる大学があってもいいのではないかと思うのだが…。 |