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河口慧海・チベットへの道

Kawaguchi Ekai ・ A path to Tibet 

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チベット旅行記

「チベット旅行記」は河口慧海の行動を紐解く最大の資料である。だからこれを読まないわけにはいかないが、読む人がそこに書いてあることをどう解釈するかによって、河口慧海がたどったとされるコースが変わってしまうのは当然である。慧海がヒマラヤのどこの峠を越えてチベットに入ったのかといういわゆる越境峠説は、昔からたくさんの説が唱えられている。その中でも最も有名なのは、この話題を扱い、慧海の越境ルートを解明したとして、第4回JTB紀行文学大賞をとった根深誠著「遥かなるチベット」が唱えるマリュン・ラ説である。

河口慧海のヒマラヤ越えの行動を紐解くには、河口慧海の著書「チベット旅行記」の読破が欠かせない。この本はいろいろなところから出版されているが、講談社学術文庫(高山龍三校訂)が最もポピュラーな本だろう。河口慧海が越境した峠がどこかを考えるには、少なくとも全5巻のうちの第1巻と第2巻を読まなければならない。そこには当時のチベットの生活や文化がいきいきとあらわされている。第5巻まで読み進むと、河口慧海が国境を意に介さず、自分の思うままにすり抜けていることがわかる。実は、僕たちはそれと同じようなことを西ネパール・西チベット国境地域で行った。

僕たちの今回の調査は、国境地域を現地調査し、さまざまな文献資料を解析し、この本が示す峠とは異なる越境峠説を唱えて調査研究をしたものであるが、登山を中心に考えている僕には、実際のところ、それがどこの峠を指していようがどうでもいいことであった。だが、学術登山隊の隊員である以上そのことについて曲がりなりにも考えないわけにはいかない。実際にそれがどこの峠を指しているのか、多少なりとも興味があるので、自分の登山経験と読書を通して、自分の頭で考えてみることにした。

 

河口慧海の越境ルートを解明するためには、何はともあれ「チベット旅行記」を注意深く読む必要がある。そこでこの本を慎重に、繰り返し読んでみることにしたのだが、この本には慧幢や慧海、ギャムツォにギャルツェンなど、よく似た名前が頻繁に出てくるので、ちゃんと整理をしておかないと頭がこんがらがってしまうことに気がついた。特に同じ人が別の名前で表記されているのに気がつかないでボーっと読んでいたりすると悲惨である。途中から突然わけのわからない登場人物が出てくることになり、人間関係の混乱が著しくなること必定である。もっともそうなるのは僕の頭だけかもしれないが、注意がいる。

河口慧海は、幸いにもインドでボーダナートの僧侶の知己を得、ともに連れ立ってネパールへと向かい、この寺に長逗留することになった。慧海は、その間に、ここを訪れる乞食巡礼者から着々と情報を仕入れ、ロー州(ムスタン)に行けば関所を通らずとも容易にチベットに抜けることができる道がある、という情報を得る。これこそわが道と悟った慧海は、カイラス巡礼を理由に暇乞いをし、ロー州へ旅立った。

カトマンズのボーダナート。通称目玉寺。
絵=橋尾歌子

実は、彼女は登山隊の隊員だが、画家という一面を持っている。登山報告書であり、河口慧海研究の書でもある「チャンタンの蒼い空」の表紙以外の挿絵は彼女の筆になるものだ。ちなみに、絵にして欲しい写真などがあれば、いつでも絵に描いてくれるという。値段がいくらかわからないが、写真を彼女の元に送れば、絵にしてくれるそうだ。写真とは違って、絵はなかなか味がある。このホームページには河口慧海のページの絵のほかカタクリの絵も提供してもらった。

河口慧海・チベットへの道1011   河口慧海研究プロジェクト

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