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木本さん、お友達いないんですか――。天王岩でよく単独で登っていたころの話をしていて、そのときのビレイヤーはグリグリと立木だと言ったらそんなふうにいわれた。実際のところそうなんだけど、僕が単独で天王岩に登りに行くのは時間を気にせず練習をしに行くことができるからで、このシステムでも天王岩の5.11b/cまでは問題なく単独でリードして登ることができるのだから、このときのパートナーは立木とグリグリで十分なのである。逆に誰か人を誘ってどこかで待ち合わせて登りに出かけていたら、その間の時間が無駄だし、わずか一、二時間の早朝トレーニングをしたり、夕方トレーニングをしたり、ガイド山行に出かける直前に岩登りに行ったり、ガイド山行から帰ってくる途中で岩登りに行ったりするのが難しくなる。だからビレイヤーはグリグリと立木で十分なのである。しかも、一人で登れば一、二時間登るだけで5.10から5.11のルートを少なくとも10本から15本、あるいは20本くらいは登れるからそれで十分なのである。でも、グリーンランド出発直前にけがをして以来天王岩にはあまり登りに行っていない。実際のところは、膝が悪いから天王岩に行ってもわさわさ登る気が起きなかったので行かなくなったのである。でも、このところの膝の回復具合はトレーニングをしようという気持ちを起こさせている。だからまた一人で登りに行こうかなと思い始めているところなのである。ちなみにほかの岩場に行って、このシステムで5.11aまでは確実にオンサイトして登ることができている。一人で登るよりパートナーにビレイしてもらった方がはるかに安全だし、登っていても実際すごく楽なのだが、一人で登るとそうやすやすと落ちてはならず難しくなる分、それがまたアルパインクライミングの実践に役立つのである。何しろ地がアルパインクライマーだからルートはリードして登らないことには話にならないと思っているのだが、このシステムで登る場合は落ちてはならないという難しさがあるだけにアルパインクライミングのトレーニングとしては精神力も鍛えられて一石二鳥なのである。何も理由なく一人でリードして登っているわけではないのだ。
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技術が伸びなくなったら今までとは何か違う方法を考えないと飛躍のきっかけは得られないだろう。停滞を悩んでいる人にはそういうしかない。ヴォルフガング・ギュリッヒがアクシオン・ディレクト(5.14a)を登るためにキャンパスボードでのトレーニングを考え出したのは伊達ではない。悪いムーブをすればするほど指先に力がいる。もちろん柔軟性もいる。でも、フリーだけではなく、アイゼントレーニングも同じで柔軟性と力が必要だと思い知らされた。実際僕自身よく登っていたころは体重も少なかったけど片手懸垂なども平気でやっていたし、体も柔らかかったからなあ。いやー、トレーニングをしよう。岩登りは楽しいもんな。難しいルートを登るにはフリーもアルパインもトレーニングが必要だ。それにしてもギュリッヒはいい体をしていたなあ。見るからに筋肉が柔らかくて強そうな体だった。出合った当時すでに5.13を登っていたのだから当然といえば当然だろう。技術とグレードが伸びるのは楽しいものだ。トレーニングはそんな状況を演出してくれる。トレーニングが嫌いだったら登り込むしかないが、これも適度にしておかないとけがをする。適当に登っているのがいいのだけど、その適当が難しい。
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裏山のクロカントレーングコースを設定するため再び偵察に行った。支尾根の状況を偵察しながらの二時間ほどの山行だったが、森の中でもチョウが溢れていた。本当に春なんだと実感した。こないだはまだ芽が出たばかりだったのにコウヤボウキはだいぶ葉が開いていた。裏山の尾根道は意外にしっかりしたものでマウンテンバイクのタイヤ跡があった。途中で支尾根に入ってみたがあまり走りやすい環境ではなかった。どうやら少し大回りして下山するルートを採用した方がよさそうだ。足に負担の大きいアルファト道を歩くのはできるだけ短くしたいのでもう一度偵察に行くことにしよう。でもなかなかいいトレーニングコースができそうだ。町でトレーニングをするのはつらいけど、山でならするとはなしにトレーニングをすることができる。
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山学同志会の新人時代の夏山合宿は前穂高岳北尾根や槍ヶ岳北鎌尾根だけではなく、滝谷にも登っていた。資料を見ていたらそうなっていた。自分の記憶の中にあるものよりより充実した夏山合宿だったんだなと再認識させられた。この当時は夏冬春の各合宿だけではなく二日、三日の山行も集中山行や研修山行という名のもとに皆で同じ山域に入ってさまざまなルートを登る山行の内容も充実したものであった。さらに在籍二年目になるとZ級以上の概念が一般的になっていた状況をうかがわせる文章もある。当時はまだハードフリーと呼ばれていたフリークライミングだが、そうした概念が一般化されていく状況が同志会速報に描かれている。昔の同志会速報や当時の山行記録を見ると面白い。昔と言っても十年一昔の話ではなく、今や30年も前の話である。普通に言えば話にならないはずなのだが、逆に当時すでにこんな山行をしていたのかと驚かされる。そんな山行をみると、今の山行は何だかだれている感じがしてしまう。だからこそアルパインクライミングの復興をと声を上げているわけだが、復興は難しいのだろう。今の人には特に。だってそんな苦労して山を登る必要などないもの。でも今の方がフリークライミングもアルパインクライミングもやりやすい環境だろ思うのだが、ジムから入るだけに目的までの道のりは遠い。
一年びっしりトレーニングをしてヒマラヤに行こう。そんな気がしてきている。そんな訓練にもいいのがパチンコだ。パチンコをするには力が要る。実際のところ、前回、坂下直枝さんからのパチンコの誘い(穂高岳継続登攀)を断ったのは空しかった。その当時は一日二日の激しい行動なら耐えられるけど三日四日と長期になってくるとさすがに怪しくなってくる気がしたのだ。どうもそんな日数の激しい山行には耐えられそうにない気がしたのである。実際、グリーンランド直前の負傷はそれほどひどかったものだったのである。しかし、だからと言って山は何もそんな人間に手心を加えてくれるわけではない。山が提供する状況に耐えられなければ最終的に死があるのみである。どんな状況になろうと、それに耐えられなければパートナーに迷惑をかけることになる。だから参加を断ったのだが、そんな要請に応えられるくらいの体調に戻しておかないとまずいな、と思う。でも、50代と60代のペアでそんなことをしようと考えていただなんて、その発想といい、その考え方といい、未だに昔と何一つ変わっていないというところがとにかく面白いし、痛快だ。小川山で坂下さんを交え、馬目・横山という若手と夜遅くどころか、明け方まで話ができたことがウィンターミーティングの開催につながったことがとてもうれしいし、それを後から押した僕たち自身も自分たちの山を模索してみたいと思う。
グリーンランド直前のけがで傷めた膝の回復が思わしくなくて、さすがに「膝が悪すぎてちょっと行けない」と坂下さんの誘いを断らざるをえなかったのは本当に悲しい現実であった。人には嘘をつけても山には嘘をつけない。そんな経緯があるからなおさら体調は万全にしておきたいと思う。今は傷めた膝を直すことが先決だが、ようやく明るい日差しがさしてきたところだ。岩登りはいくらでもごまかしがきくけど、ボッカや歩行といった登山の基本的な部分は案外ごまかしがきかない。それでも登山が面白いのは経験というものがこんな体でも余裕を持ってさまざまな対処をさせる術を身につけさせていることだ。これまで伊達に激しく登ってきているわけではないのだ。
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里ではもはやカタクリもアズマイチゲも咲いている。さすがに一月も二月も暖かかっただけに今年は早春の花が咲くのが早い。アブラチャンも満開で、里山はすっかり春の装いに包まれている。木々の芽も膨らんで、山がほんのり色づいてきた。もうじき山笑う季節である。しかし、これから僕が向かう雪山は冬山か、はたまた春山か――。
写真 咲き始めたカタクリとアズマイチゲ
どちらかと言えば穏やかな春山がいいなあ。そうは思っているものの連休の天気はめまぐるしく変わる予想だ。これは僕の登攀目的地付近の天気の予想であるが、当たらずとも遠からずだろう。まず、金曜日は朝方まで雨が残りそうだが、午後からはしだいによくなるようだ。おそらく現地について僕たちが歩き始めるころには雨はすっかり止んでいることだろう。夜半には風も収まって晴天になるはすだ。翌日は晴天をもたらす高気圧が真上にくるはずだからまずは無風快晴の好天に間違いないだろう。もし快晴ではないにしても、晴れは確かだ。地上天気図や高層天気図から予想するかぎり、連休中日の晴れに外れはないだろう。晴れは少なくとも丸一日は持つ。しかし、翌日はもはや下り坂で、今の予想だと早めに崩れてきそうだ。登山計画は中日に目いっぱい行動して氷雪壁を登り、成功をもぎ取るという計画ですすめているのだが、何とかなるだろう。翌日は、早朝下ればまあたいした雨には合わずにすむだろう――。そんなふうに僕自身が得た資料をもとに自分で判断した天気予報を伝えたがいったいどんな天気になることやら。
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21日、23日と悪天下で立て続けに事故が起きたようだ。何も天気が悪そうなときに行動しなくてもと思うが、その日しか時間がないのかもしれない。でも命はたった一つで替えがない。簡単な話だが、案外理解されていない現実があるのだろう。僕たちは連休中日の好天を利用して雪稜・雪壁の登攀に出かけたがけっこう楽しかった。でも今年は里にも山にも雪が非常に少ない。
滑落?:男性が死亡――栃木・茶臼岳 遭難:意識不明の1人山中に 2人は救助 新潟・妙高山 滑落:赤岳で男性が /山梨
妙高山の遭難で取り残された人は亡くなった。赤岳の遭難も同様で自力で事故の発生と救助要請を連絡したものの死亡した。家族には申し訳ないが、寒い夜を事故者一人で過ごせば当然そうなるだろうと想像がつく。だからこそ山では決して事故を起こしてはならないのだ。特に冬山では。*
来月はゴールデン・ウィークが入るから原稿の締め切りが早い。そう言われると早めに書いておかなくてはまずいと思う。でも、なかなか書けるものではない。が、すごい裏技があるらしい。まあそうだろう。そうでなければ突発的な事態に遭遇した場合にはうまくいかないだろう。「木本さんに言っちゃあまずかったかな」と言われたけどもう聞いてしまったからどうしようもない。でも次の号はすぐに書けそうだ。実は、書けないことより書きすぎてしまうことの方が怖い。できればこのまま突き進んで本年12月号までにぴしっとはめこみたいが、最後の章は本にするときの書き下ろしでもいいやと思い始めている。もしかしたら実際にそうなってしまうかもしれない。本にするなら読者にそのくらいの余禄があってもいいような気がする。
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