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戸隠西岳P1尾根
目的地が近づくにつれてだんだん不安になってきた。何しろいつもは道の両側にあるはずの雪がまったくないのだ。今年はこんなに雪が少ないのかといまさらながらに驚き、感じ入ってしまったのだが、雪稜雪壁を登りに行くというのに肝心の雪がなければ話にならないではないか。昨日ちらと話した今年の雪の少なさの話題の中で、「こんな状態で大丈夫なの」と言われた一言が妙に心にかかり、自分自身疑心暗鬼にとらわれ始めていた。しかし、幸いにも飯綱山には雪がついていた。これならとりあえず戸隠にも雪がついていることだろう。
写真 右から戸隠西岳P1〜P6・一夜山
こんな雪が少ない状態のP1尾根を登るのは初めての経験だが、やはり面白かった。景色も抜群。いい山、いいルートだ。上楠川脇の公民館で荷物を整理し、腹ごしらえをして出発準備を整える。道路にも田畑にも雪がないから何だが変な感じだが、そばに立っている看板は戸隠西岳P1尾根は鎖場が多く危険なルートだと伝えていた。実際、稜線は細く、鎖場がたくさんあって危険な場所が多いルートなのだが、冬はそんな尾根がすっかり雪に覆われ、雪稜雪壁のとても魅力的な登攀ルートが出現する。だからと言って危険な場所が減るわけではなく、むしろ危険な場所は増えるのだが、この雪稜雪壁ルートが面白いルートであることは僕が請合ってもいい。でもここを登るにはある程度技術と体力が必要だ。
農道をたどり、終点から山道に入り、中社方面の登山道と分かれ、西岳を目指す。途中足跡が間違っていたが、どうやら皆間違えているらしい。どうもおかしいので振り出しに戻ってみると正しい山道に出くわした。正しい道は九十九折に登っていくからそのポイントを見落とせば間違ってしまうのは道理だ。正しい道をたどると、昔の田畑の横の山道をたどって渡渉点に出た。幸いに天気は予想通りの展開だったのだが、上楠川の増水までは予想していなかった。しかし、考えてみれば朝方まで確実に雨が降っていたはずなのだから増水を予想しておくのは当然のことだった。
登山道の渡渉点について何も考えたいなかったが、この濁流をどこでどう渡るか考えなければならない。もっと上流に遡って渡ることも考えたが思い切って最も浅いところを渡渉することにした。もちろん何度も渡渉したくないので一度ですむようにしたが、川の水は足がしびれて感覚がなくなるほど冷たかった。この山を何度も登りにきているが、渡渉をするのは、実は今回が初めてのことである。上楠川を渡渉し、天狗原を目指してラッセルをしていくと先行者の踏み跡に出た。僕たちは適当なところまで歩いていって幕営することにし、明日に備える。重い荷物を背負って長距離あるくより、軽い荷物で登攀を企てようというわけである。
雪が少ないのか、あるいは寒さが弱いのか、どちらにせよ今年は山に雪が少ない。つまり雪稜雪壁のルートでありながら雪稜も雪壁も発達していないのだ。でもそれなりに面白いのがこのルートだ。この尾根は案外細くて、しかも案外傾斜が強くて立っているから悪い。 でも僕の好きな山域の一つだ。
写真 アリの戸渡り付近
天狗原からしだいに競りあがる尾根はやがて両側が切れて細くなる。大木が生えているから緊張感はいくらか減じるが、最初のピークに上がるとこの先登ったり下りたりを繰り返すようになるのでしっかりした歩行ができないとまずい。雪は朝の冷え込みで幾分かしまっているが、日差しが当たり始めると柔らかくなった。上下を繰り返し、雪壁が始まるあたりまで登ってくると今年は気温が高めに推移していたために雪の質が本当に悪くなった。春も終わりの雪のようだ。
ロープをつけて雪壁を登っていくが、時折足が深くはまる。先行パーティがいたが、彼らは僕たちより上にテントを張っていたのでまだ雪が冷えていたときに登ったようで、彼らの足跡はアイゼンの跡だけだから何の役にも立たない。ラッセルを繰り返して登ると雪がなくなった。草付と短い藪を越え、大きなつららの下をトラバースする。こんなに藪が出ているのも今回が始めての経験だ。雪は4月中旬以降の量なのだろうか。こんなに雪が少ない状況でこの尾根を登ったことがないからどんなものなのか分からない。
写真 主稜線からの景色
戸隠西岳P1尾根は雪稜雪壁登攀ができるいい尾根だと思っているのだが、難しく、マイナーなー登攀ルートなので訪れる人は少ない。特にアルパインクライミングが低調な今はそんな気がするが、この日は5パーティーもいた。そのうちの一パーティはアプローチの雪質が悪い上、その先の僕たちが登っていた雪壁が悪く、急な雪壁が見えたからか、途中から引き返してしまった。実はそのあとにも二人パーティーが登ってきたので、彼らが荷物を残してまた登ってきたのかと思ったのだが、違っていた。
僕たちの前を登る先行パーティーは稜線上でテントを張ったパーティーだが、先頭は先行していた三人パーティーに追いつき、追い越した二人パーティーであった。いずれのパーティーのメンバーも若かったのでなんとなくうれしくなった。どうやらアルパインクライミングも捨てたものではなさそうだ。
あとから登ってきた二人パーティは引き返した人とは違うようで若い男性二人のパーティーだったが、先に行ってもらおうとすれ違うと、「木本さん?」と言われたので、よく見るとK山君だった。K山君とY田君のパーティーは今朝下から上がってきたらしい。渡渉点はどうしたと尋ねるとY田君はアイゼンをつけて飛び石伝いに跳んできたという。水は濁ってなかったかと聞くと、澄んでいたという。どうやら雨による増水は前日で収まったようである。
前日入った三人パーティーは僕たち同様に渡渉に苦労したらしいが、上流から回り込んで重い荷物を背負ったまま何とか飛び石伝いに越えたらしい。しかし、うち一人は渡渉したそうだ。話によると、増水した川は膝上ほどの深さがあったという。こんなことを書くと、ますますこのルートを敬遠するかもしれないが、いいルートなのでぜひ皆にも挑戦して欲しいと思う。もちろんK山君とY田君のパーティーのように一日で往復する必要はない。もっとも先行パーティーがいて踏み跡が期待できない限り一日で往復することなど難しいことは言うまでもない。
二人の動きを見ていたら、Y田君は意外に慎重そうにかつ確実に登っていたが、K山君は案外大胆だが粗忽な感じがした。自分自身を大切にしてくれよなと思う。天気は予想通りとはいえ、思いのほか穏やかで登ったことがある山々がたくさん見えた。
写真 雨の雑木林はカタクリもアズマイチゲも花を閉ざして雨が止むのを待っていた。
*
薬が切れたことだし、診断書も書いてもらわなければならないので、かかりつけの病院に行ったら診察室の場所や医師がかわっていた。受付で診察室の場所が変わったのですが分かりますかと聞かれたが、分かるわけがない。しばらくこなかったからなあ。診察室に行って受付に行くと担当の戦線の名前がなかった。いつの間にか担当だった若手女性医師がいなくなっていたのは残念だが、いなくなるのが分かっていたらこれほど期間をあけず診察兼挨拶にくるべきだったな。そうすれば僕自身も楽だったのだが。何しろ冬がいちばん足先が切れやすいから薬が必要になるのだ。この様子だと診察室は全体的に広くなったのかもしれない。そんなふうに興味本位で見渡していたところ、久しぶりに病院に来たので「今日はどんな用件できましたか」と問われ、いつもの通りですと言ったらすぐに分かったようだが、実は、それはとても悲しいことでもある。ところで、フロアの看護師さんにいきなりテレビを見ましたと言われて面食らったけど、NHKスペシャル「白夜の大岩壁」はたくさんの人が見ていてくれていたのだなと思うとうれしくなる。さすがにNHKだ。視聴率は低くても視聴者は多い。もちろん再放送の力もあるだろうが。
診察のため膝のレントゲン写真を撮って、受付に持っていくと、すぐに名前を呼ばれた。診察室には二年前のグリーンランド出発直前に落石を受けたときに撮ったレントゲン写真が置かれていたが、そのときにもちゃんと膝のレントゲン写真を撮っていたらしい。そういえば、あばら骨は始めから骨折していることが確実だと分かっていたし、それに対して特別な治療法があるわけではないから「レントゲンは撮らなくていいです」と断ったのだ。だが、そのほかの骨折の疑いがある腰や尾てい骨や膝はちゃんとそのときにレントゲンを撮っていたのだ。実際のところレントゲン写真を撮っておかないとMRIが撮れないから万が一のことを考えてそうしていたのだが、膝のレントゲン写真も撮っていたなんてすっかり忘れていた。膝が骨折だったらグリーンランドに絶対にいかなかったろうが、幸い骨折ではなく打撲か筋挫傷と見られた。どうやらけがは二箇所の骨折ですんだようだから、グリーンランドに行くことにしたのだが……。
今日は初めて診察を受ける先生だったので、そんなことになった経緯から話すと、カルテに書かれていたのはそういうことかと納得しておられた。実際このときは急を要したので、しばらく様子を見たとしても次に診察に伺う日は出発直前になるので、その日は最初から予約を入れて、病院に来ればすぐに見てもらえるような手続きをしたのだった。何となく大丈夫そうなのでというか、尾てい骨は傷みが引かずどうやら骨折しているようなのだが、骨折箇所を知るにはMRIを撮らなければならないようだ。だがMRIを撮って骨折箇所がわかったとしても特別な治療法などないし、だからと言って撮影に出かけないというわけではないので、MRIを撮ること自体に意味がなくなっていた。そこで撮影が延びても大丈夫なくらい十分余裕がある日数分の薬をもらうことで手を打つことにした。事情が事情なので最大限出せる薬の量を出してもらえるよう頼んでいたのだが、まあこんなもんで十分だろうという日数分をだしてもらったのだった。グリーンランドは薬がなかったら行動が難しかったろう。
実際のところ、そんなことまでしてグリーンランドのオルカを登りに行く価値があったのかどうかは今となっては疑問だが、変われるものなら変わって欲しかったな。そのときの傷のうち左膝の傷には今も悩まされているのだ。左足をかばっていたので右足にも波及したらしく、今回は両膝のレントゲンを撮られた。でも、ようやく昨年11月末あたりから急速に快方に向かっているので、この春から筋力トレーニングを始めるつもりですというと、先生はいくつかトレーニング方法を教えてくれた。新たな方法もあったから勉強になった。早速試してみよう。それにして、山から離れると障害者以外の何者でもない気がする。山に行こうというモチベーションが作り出す勇気ややる気はすごいものだと我ながら思う。
病院の庭のサクラはほころび始めていたが、この寒さで足踏みしているようだ。この寒気が抜けたら、きっとサクラは一気に咲き誇ることだろう。僕の膝もそんなふうになってほしいものだ。
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4月から6月の気温は高めに推移するようだ。4月は晴れる日が多いが5月は周期的に変わるらしい。今日は熊谷でサクラが開花したそうだ。
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小沢民主党党首に辞任圧力がかかり始めているが、そのまま居続けて、選挙に勝利し、自身の失敗を逆手に公言通り政治献金改革をやってくれると面白い。西松建設の政治献金問題は民主党も自民党をも揺るがしているようだが、政治献金の額は自民党の方が民主党よりはるかに膨大だからその言葉に色めきだっているし、同じ問題で謙虚される可能性がある政治家は皆政治献金収支報告書の訂正切り替えを行っているが、彼らも皆小沢民主党党首と同じ過ちを犯していたわけで、まさにスケープゴートにされている感じがしないでもない。小沢党首自身が逆襲するチャンスでもあるし、自身が政治献金改革をすると言っているのだからとてもいい機会のような気がするがな。そうなれば政治献金改革に民主党も自民党も誰も反対できないだろう。そこまでやって辞任すると面白いのだがなあ。辞任圧力は選挙が近づくにつれて当然強くなるだろうがそういう方向性を打ち出して一丸となれば面白い。自民党の二階大臣にも献金付け替え疑惑が浮き上がっているから麻生政権も窮地に陥ることだろう。実際のところは政権担当大臣である二階さんの方が小沢民主党党首よりはるかに罪が重い。どっちもどっちだと言ってしまえばその通りなのだが……。
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