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標高差180m、直線5.4キロのクロカントレーニングコースの標準タイムを1時間25分に設定する。トレーニングコースを二周りするか往復すれば3時間あまりのコースになる。まあちょうどいい手ごろなコース設定だったかも知れない。一往復して岩場まで歩いていけば……。膝がかなりよくなったら考えてみよう。でも、それなら自転車で行った方がよさそうだ。昨年の今頃も同じようなことを考えていたのだが、膝の具合があまりによくなくて計画は頓挫した。でも今年は違う。その膝は、実は自分が想像していたより広い範囲が損傷を受けていたようだ。こんな体でも普通の人と比べれば比べものにならないくらい歩けるし、攀じ登れるというのが不思議だ。体は一箇所が損傷してもちゃんとそれをカバーするように周りの筋肉が補助する。その働きが極度に発達しているのがアルパインクライマーなのかもしれない。そんな働きは登りたいという強力なモチベーションと連動して損傷部をカバーするのだろう。だからこそグリーンランド登山中に予想もしなかった筋肉がついてしまったのだろう。先日、村主章枝が肋骨を骨折していた状態で世界フィギュアスケート選手権2009に出ていたということが分かった、という記事があった。肋骨骨折は状態にもよるのだろうが、全治一ヶ月、二週間は安静だと記してあった。これに尾てい骨骨折、膝の筋挫傷とくれば、相当なものだろうが、そんな状態でグリーンランドのオルカを登りに行っていたのだから傷が治るわけはない。岩登りだけではなく、重荷にもあえいでいたわけだから、治るものも治らず、悪くなるのは道理だろう。でもそんな状態でも未踏の岩壁の未踏のルートをリードして登れてしまうのだから恐ろしい。人間の体は不思議なものだ。そんな負傷の回復に二年も要するのはしかたないことと諦めてはいるが、そこまでやって登るだけの価値がある山だったのだろうかと思ってしまう。こんなことなら誰かに代わってもらえばよかったかなあ。登るだけなら誰でもできたろうから。
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先日原稿を書いていて思ったのだが、この当時の体力はすごいと思わせる。若さってそれだけで大きな力があるものなんだろう。でもその力も年とともに衰退してくるわけだから、うまい具合に使ってやらないといけない。それが老獪さという言葉で表される力なのだろうと思うのだが、そうした力の使い方をしたいものだ。退役したシェルパは歳をとってもけっこう力がある。そんな彼らでもたいした経験がないメンバーと比べたら体力は雲泥の差だ。 それを目の当たりにしているだけに、人間の体というのは恐ろしいほど特化するものなのだなとつくづく思う。
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藪山を歩いているとすごく落ち着く。膝が悪いことなど忘れてしまうくらいだが、それは落ち葉が堆積してできる腐葉土のせいなのだろう。そういった意味で山はやさしい。今は意識してリハビリに励んでいる。このリハビリというヤツがまた面白い。人間の体というのは強いだけではなくしなやかさがなければだめだと教えてくれる。体の変化も突然来るが、快方に向かった兆候が現れるとすごくうれしいものだ。筋肉の損傷の範囲が予想より広かったことが分かってちょっと落ち込んだけど、今はなんてことないもの。足だけでなく、上半身も鍛えなければならない。少しずつ筋トレして片手懸垂ができるようにしよう。どうせなら前より強い体に仕立て上げようと思ってしまう。何しろ心肺機能も鍛えておかねばならないからなあ。
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読図の考え方がどうやら普通の人とは違うらしいというのがNHKの研修で机上講習をしているときにわかったのだが、藪山を歩いていると本当にそう思う。僕の考え方は実践的かつ柔軟だから発展性があるのだろう。一を知って十を知るようなもので、読図するだけではなく、読図をもとに今の体力での目的地到達時刻や自分自身の今現在の体力や相手の体力を考えたりもする。山学同志会の一年目にして驚異的に登山や登攀レベルが上がったのもそうしたことが基礎になっている気がしてならない。僕たちに必要なのはオリエンテーリングに必要な読図とは違ってもう少しいい加減なレベルでいいのだが、この読図って最終的にあっていればいいんだよな。この当時の個人山行はほとんど地形図を使って到着時間や出発時間まで出して計画を立てていたし、行動をし低たがあらかじめ地形図からナビの資料を作っていたようなものだな。基本というのはどんなものにもあるけど、基本はあくまで基本に過ぎず、それにしたがって忠実に行動すれば無難にことが運ぶというだけで、実際のところはそこから離れなければ発展などしない。そのあたりの考え方が読図に限らず、僕はほかの人とはまったく違っているようだ。子どものころから山登りをしているようなものだからしようがないのかな。
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岳人五月号の備忘録谷川岳の警備隊だった馬場さんの記事の中に今の人は訓練はするけど山を登りに行かないという内容があった。実際、レスキュー訓練などの類は麓でよくやっているようだけど、そんなものは山を登れなければ身につけていても役立たない。そんな技術をつけていれば安心するのかもしれないが、それを使うシチュエーションが想像できなければ、あまり意味がない。それにそれらは基本で応用が利かないと役立たない。それには山に登ってどんな危険があるか知ることとが必要だろう。逆に山を登っていれば特別に練習しなくとも必要な技術に気がつかされるから、山を真剣にやりたいと思ったら自ら勉強をしてそんな技術はどんどん取り入れていくはずだ。だからどんどん必要な技術が身についていく。山学同志会の山行の中でそんな技術を特別に学んだ経験はないけど、どうすればいいのかはよく分かっていた。実際に遭難事故が発生したら何より体力が必要になるからそんな技術をつける前に体力をつけていないとだめなことは言うまでもない。体力がなければほかの人を助けられるわけなどない。そんなのは当然の話なんだけど、技術をつけていれば本当に安心だと思ってしまうのだろうな。
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山岳雑誌岳人に連載中の原稿は三十年も前に行った登山や登攀のことを思い出しながら書いているので、当時のことを思い出すまでがとても大変だ。はじめコンピュータに向かって原稿を書き始めるときは、テーマを決めているだけでどんな内容にするかまでは決めていないので、そこを決める必要がある。しかし、それを決めようにも当時の状況がなかなか思い出せないこともあるから、結局は少し書き始めたところで内容を決めていくことになるのだけど、書き始めるとようやくああこうだったなと案外鮮明に思い出してくる。でも三十年も前のことなのに心は今も少しも変わっていないことに気づかされて驚く。だいぶ歳をとったのに今も昔と同じ内容の登山をやっていることが面白いと思うし、それを超える登山をしてやろうと思うところがまた面白い。山って登らなければ心が腐る気がしてしようがない。心が昔のままの若々しいものだったらけっこうまじめに鍛えることができるし、そうした登山ができるからまた不思議だ。でも心だけではどうにもならない。心と体の距離があまり離れていないことが大切だ。ところで冬の穂高岳北尾根って、条件さえよければ徳沢から往復して登れるものだったんだなあ。今の今まで気がつかなかった。ガイド登山をしているとついやさしい行動を考えてしまい勝ちだけど、やろうと思えばどんな行動でもできるものなんだなと思わさせられる。今山岳雑誌岳人に連載している僕の原稿「しぶとい山ヤになるためには」書いているうちにいろんな発見をさせてくれる面白い原稿書きだ。でも、もうじき終わりだな。
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背水の陣で何もかも忘れてというか、すててというか、そんな状態でリハビリに挑まなければならないと思ってこの時期にリハビリに励んでいたのだけど、どうやら本当に先が見えてきた気がする。その未来は意外に明るそうだ。そう思うと思い切ってリハビリをした甲斐があったというものだ。リハビリは自分のためでもあるが、実はクライアントのためという部分の方が大きい。実際そうしなければ山でクライアントの安全を確保することができないと思うからこそ行っているのである。どうしてもクライアンとの安全を確保できないような状況まで膝が悪化しているのならガイドは辞めるより仕方がないのだが、どうやら自分には藪山と温泉の組み合わせがちょうどいい薬になるようだ。こういう環境で育ったからこそこういう環境のもとでリハビリをやることに大きな意味があるのかもしれない。超回復するかもしれんな、なんて甘い夢を見ている。そろそろ岩登りの準備をしておかないといけないかもしれない。僕のパートナーであるグリグリはどこへいったかな。日の出がどんどん早くなっているから一人で登れば皆が来る前に相当登ることができる。
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