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この間、八ヶ岳の赤岳山荘のおばちゃんに廣川さんが凍傷になって木本さんと同じ先生にかかっている、という話を聞いた。指を切るみたいだよと言っていたので、ちょうど二階から下りて来た当の廣川健太郎本人に確認するとどうやら足の指先を2本ちょっと削るらしい。ほぼ確定だと言っていたが、残念なことだろう。凍傷なんてならなければならないに越したことはない。指を切ったところでハクがつくわけではなく、ただつらいだけだ。もったいないことだがしようがない。今頃はもしかしたら切断後の痛さに耐えているところかもしれない。骨を切ったあとは強烈に痛いのだが、それよりひどいのは、歩き始めたときに患部を柱とかちょっとした出っ張りに打ち付けてしまうことだ。そのときの痛さといったらない。ところで、金田先生は今年も指を切らなきゃならないと言ってきっと嘆いていることだろう。今度あったら慰めておこう。この間会ったけど話す暇がなかった。来月会うだろうからそのときにでもゆっくり話すことにしよう。

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リードをするっていうのは大変なことなんだな――。この間、そう思わされた。それというのも練習ではちゃんと余裕を持ってリードして登ることができるのにいざ本番となるといろんなことが起きるし、登り方そのものも練習のようにできず、ぎこちなくなってしまい、バランスの悪い登り方も現れてしまう状況を目の前で見ていたからである。まあ、でも基本的な姿勢はいい。ピックもまた砥いだし、次はもっとうまくなるよ。いずれにしてもリードはリードしないことにはうまくならないのだから、がんがんリードした方がいい。

アイスクライミングにしろロッククライミングにしろ、リードの基本的な考え方は万が一落ちたときにはグラウンドフォールをすることがないように適切な間隔でアイススクリューなりカムなりをセットしていくことだ。でもこういうのって面白いよね。技術書などにも物によっては二、三メートルおきにとか書いてあるけど、50メートル登ったとしたらいったい何本アイススクリューやカムが必要になることか分かっているのだろうか? 15本くらい? 今までいろんなルートを登ってきたけど、そんな数のアイススクリューを持って50メートルの距離を登ったことなど一度もない。もちろんそれは登るにつれてアイススクリューの間隔を広げていくからだけど、最終的にはアイススクリューが必要になる数はもちろんクライマーのアイスクライミングの技量とランナウトして登ることができる力に比例する。しかし、いくら安全に徹するといっても、こんなにたくさん持って登ったら登りにくいだろうな。

アルパインクライマーは基本的に落ちてはならない。これはもっとも基本的な、かつ重要なアルパインクライマーのクライミングテクニックだ。結局、そうするにはクライミングテクニックを研いて安定した登りができるように努力するしかない。でもテクニックだけ研いてもだめで、メンタルも研かないと話しにならない。むしろルートによってはメンタルの方が大きなパートを占めているような気がするけどね。僕は。

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リハビリを始めてからちょっと膝が柔らかくなったかもしれない。普段あまり気にすることがなかったけど、そんな気がする。頭も柔らかくしたいところだが、これはどうすればできるのだろう。脳みそは柔らかいのに考え方は硬い? 面白いものだな。

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山ではチゴユリが咲いてきた。山では季節に応じて次々に花が変わっていくので面白い。ヤマグワやアケビも花をつけている。新緑は徐々に葉が広がってやがて森の中に届く光が少なくなるはずだ。早春の花カタクリは実が大きくなって春はもうじき終わりだなと思わせる。御前山のカタクリはもう終わったのかな? どうやらツバメが飛んでいるところを見ると春も盛り、もうじき初夏の気候になるのだろう。サワガニは目覚めて歩き回っているかな? 川面を見たらヤマメが泳いでいたが、放流したものかな? てっきりアブラハヤがいるのだろうと思っていたのだが、どうも水面の波紋の様子がおかしいなと思ってよく観察したらヤマメだった。あまり大きなのがいないところを見るとえさが少ないのだろうが、気をつけれて見るとあちこちにいる。川岸の萱の根の下なども体の一部が見える。ヤマメにも縄張りや順位があるが、この流れでは順位がつくようないい流れが少ないように見える。魚を捕りにいくかな。でもまだ水は冷たい。魚を捕まえようとするこの身が川に捕まえられてしまいそうだからもう少し気温が上がるまで待とう。ところで、この小川にはホタルは出るのかな? 看板があるからきっと飛ぶのだろう。6月になれば分かることだが、どのくらい飛ぶのだろうか。「みんなでホタルを守りましょう」と書いてあるが、果たして……。守れるほどホタルが飛べばいいのだが。

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トレーニングコースは水平5.4km、累積標高差300mくらいかもしれない。歩いて一周一時間半くらいで回ることに設定しておくのは適当なところかもしれないな。ところでこのコースを走ったらどのくらいかかるのだろう。アスファルトとかグランドではそれほど走ろうとは思わないけど、山なら走ってみてもいいかなと思う。とはいえこのわずかな距離でさえ何年も走った経験がない。まずは歩いてこのタイムをどんどん縮めていこう。そのうち膝の周りにしっかりした筋肉がつけば多少走ることができるだろう。こんなふうに書くと、きっとどんなにひどいけがなのだろうと思うのだろうが、山に行けば、実はついてこれないくらいのスピードで歩けるから不思議なものだ。昔、山で病気をして、落ち着いて小康状態になったときに、救助を要請していたから救助隊がきたのだけど病人はどこにいるんだといわれたことがある。今度は障害者は、あるいは膝をけがしたヤツはどこにいるんだと言われるかもしれない。実際、そんな感じになるように回復させたいものだと思うが、そればかりは無理と分かっているから悲しいものだな。もっとも1986年からずっと障害者だ。その後もいくつも初登攀をしているけど、健常者なら僕が登ったルートなら登れるんじゃないのかなと言いたいところなのだが、そううまくいかないからこれまた面白いよね。登れるかどうかは身につけている登攀能力だけで決まるわけではない。フリーで高難度ルートが登れるからこのくらいのグレードならアルパインも登れるというわけではないのだ。アルパインクライミングの面白さはそんなところにもあるのだろう。

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グリーンランド出発直前のけがに関するリハビリとトレーニングについて話をしているうちにやがて「木本さん、いったい何度死にそうになったことがあるんですか」って聞かれた。死ぬかと思ったのは何度もあるけど、死にそうになったのは一回かな。二回かもな。少なくとも二回はあるな。それから死んだのが一回。こんなもんだと思う。どの程度で線引きをするかが問題だけど、確実にそちらに入れた方がいいのはそんなものだと思う。あとでゆっくり調べてみよう。「でも僕はあなたほど大きな滑落をしたことはありません」って言っておかなきゃならないだろうな。もしかしたらもう言ったかな……。傷口を数えたらいったいいくつになるかな。山ヤの体もリーサルウェポンのメル・ギブソンらのように傷だらけだな。ちなみに死ぬかと思ったことって小さなことでもけっこうPTSDとして体に深く刻み込まれているけどね。

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飼育されているオオサンショウウオの足の指が20年近くかかって再生したらしいけど、自然界ではないことらいしい。その理由に栄養不足が挙げられていた。サンショウウオのそんな遺伝子は人間の体の中にも眠っているのだろうからその遺伝子を活性化させられれば面白いのだがと思う。でもすべては生と死に関わることで一筋縄ではいかない。細胞レベルではすでに不老不死の力は見せ付けられている。つまりそれは癌細胞である。しかし、たとえ細胞レベルで不老不死であろうと、人間のレベルまでに高めると人間そのものが死んでしまう。ところで、最近人間のクローン胚が作られ子宮に埋め込まれたそうだ。果たしてクローン人間は誕生するのだろうか? ちなみにiPS細胞は癌化しやすい欠点があったのだけど、最新の研究によると遺伝子を使わないでiPS細胞を作る方法が開発されたらしい。アメリカに1勝10敗という記事があったけど、これでもっと離されたのかもしれない。

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