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南アルプスのライチョウ
激減の危機 シカなど餌場荒らし 南アルプス
 世界最南端、南アルプスのライチョウに危機が迫っている。近年、生息地である3000メートルの稜線(りょうせん)にまでサルやシカが登ってきて、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧(きぐ)種に指定されているライチョウの餌の高山植物を食べるようになったためだ。40年間ライチョウを研究してきた信州大の中村浩志教授(62)=鳥類生態学=は「このままでは5年以内にトキやコウノトリと同じ道をたどる。行政が今すぐ動かなければ、取り返しがつかないことになる」と警鐘を鳴らす。【沢田勇】ライチョウ 激減の危機 シカなど餌場荒らし 南アルプス
 信州大が85年に発表した調査結果によると、日本のライチョウの推定生息数は約3000羽。多くは北アルプスにおり、南アルプスは723羽だった。中村教授によると、南アルプスでは約300羽にまで減少。生息環境が比較的残っているのは、北部の北岳(3193メートル)、中部の荒川岳(3141メートル)、南部の聖岳(3013メートル)程度という。山梨県によると、南アルプスでは10年ほど前から「駆除するハンターの減少などで」(みどり自然課)、ニホンジカやニホンザルが高山帯に進出するようになった。高山植物の食害は4〜5年前から顕著になり、静岡県自然保護室によると、静岡・長野県境の塩見岳(3047メートル)などでは既に植物が失われて表土流出が始まった。山梨県は昨年12月、シカ3頭にGPS(全地球測位システム)付き発信機を付け、行動域を調べている。しかし、中村教授は「調査している時間はない」と指摘。ライチョウを守る手段として北岳など3峰に見張り人を置き、シカとサルが上がってくる6〜9月の4カ月間、徹底的に低山に追い払うことを提案する。「まだ一定の個体群が残っている時に保護すれば低コストで絶滅から救える」
 寒冷地の鳥であるライチョウは、2万年前の氷河期末期、陸続きだったユーラシア大陸から日本列島に入り、本州の3000メートル級の山々でのみ生き残ったと考えられている。(5月2日13時24分配信 毎日新聞 写真も)

こんなのは北岳に登ってみればすぐに分かる。実際、北岳の頂上にまでサルがいるのは異常だ。北岳バットレスではサルの移動に伴って落石が起こっている。こんな環境ではライチョウは安心して子育てすることができないだろう。一般ルートからだけではなく、バリエーションルートからも自然を見つめることができる僕にはライチョウの将来が容易に想像できる。

*

樹林帯の急登、樹林帯の氷雪歩行、細い氷雪の稜線の登り下り、簡単な岩登り、長大な山稜の縦走――。春まだ浅い赤石岳・荒川三山の縦走はなかなか楽しい山行だった。一日の行動時間は長くなったが、充実した山行が楽しめた。ただし、山小屋はまだ営業していないから、食料やテントを持参しての春山縦走だ。好天に恵まれれば、南・北・中央アルプスと富士山などの景色が楽しめる。実際、そんな景色を毎日堪能した。

初日は赤石小屋までだが、小赤石岳に突き上げる大倉尾根とも東尾根とも言われる稜線は細くて長い。大倉財閥を創設した大倉喜八翁は82歳だか88歳だかでこの尾根を登ったらしいが、本当だろうか。200余名を引き連れての大名登山だったらしい。果たして自分の御足で歩いたのだろうか。谷底からの急登が終わると、尾根はなだらかになるが、雪がでてくる。その雪は氷化していて悪い。山道が北東側斜面をたどるときはたいがいそんな雪質だ。

赤石小屋の新館の方は南北に開けて見晴らしがいいが、南側には上河内岳や聖岳や赤石岳が見える。明日登る赤石岳の山容は近いこともあるが異様にでかい。さすがに北アルプスの山々とは違う。

二日目の大倉尾根は富士見平までは楽勝だ。だがそこからトラバースとアップダウンが始まる。大倉尾根を登っているのは僕たちのほかに単独行の人が二人だけ。なんて静かな山だ。遠くに見える荒川三山も赤石岳に負けず劣らずでかい。あんなに遠くまで歩いていかなければならないのかと思うと憂鬱になる。南アルプスはそんな気持ちにさせるほどでかい山塊だ。赤石岳直前で虹が見えた。虹に向かって登っていくメンバーを写真に撮る。正面に見えるのはきっと希望の虹だ。頂上からはさらに南の山域が見える。ここも山また山の世界だ。

小赤石岳に折り返して、北上する。途中で交差縦走のような形になったガイド仲間の山田パーティーに出会う。彼らは昨日は千枚小屋まで上がったらしい。彼らと別れて、荒川中岳を目指す。山は目の前だが、大きな山の頂はなかなか近づかない。ようやく着いたと思ってもそこはまだ荒川前岳だ。中岳まではもう一登りある。使えない避難小屋に文句をつけながら小屋前にテントを張ったが、今夜天気が崩れないことを祈る。山頂からは塩見岳や間ノ岳や仙丈岳や甲斐駒ヶ岳が見える。こうして南アルプス北部の山々を見ると間ノ岳はでかい山だと思う。NHKの日本の名峰で日本一長い3000mの稜線と銘打っていただけのことはある。しかし、東の富士山はそれに輪をかけてでかい。このコースはずっと富士山と一緒だ。

三日目は荒川中岳から悪沢岳を目指す。コルに下り、登り返して山頂だが、コルは深い。実際にこのコースを歩いてみると、前岳、中岳、東岳をいっしょくたにして荒川三山と呼ぶのはやりすぎではないかと思う。この隣の丸山も3032メートルの山だが、悪沢岳の肩のようで損をしている山だ。間ノ岳の肩のような三峰岳と同じ存在、同じ扱いに思える。そこから小さなアップダウンを繰り返すと千枚岳に着く。丸山の先から千枚岳の間は案外岩尾根だ。その先は千枚小屋まで雪をたどり、さらに椹島まで樹林をたどる。が、千枚小屋には寄らず、左の尾根からショートカットして踏み跡に入った。二日目に続き、いい加減歩くのがいやになるころ椹島に着いた。だが、コースの最後が案外悪い。岩尾根から川沿いの道に下るまでが異常に急だ。

しかし、この南アルプス南部は山深いところだな、とつくづく思った。体力がいる山だ。こうした山行をしてみると、山小屋が営業している北アルプスの春山がいかに楽かがわかる。ライチョウはすでに羽色がごま塩模様になっていたが、七羽も出合った。でも、実際に僕が見たのは五羽だった。二羽は鳴き声は聞いたが、どこにいるのか分からなかった。縦走の最後には野生のキツネにも出合ったが、物怖じしないヤツだった。ゴンという名前らしい。花は椹島付近のヤマシャクとイワカガミとイワザクラとツツジくらいなものだったが、谷は早春の爽やかな空気に包まれていた。登山道ではマイヅルソウが顔をだし、白い花芽をつけていた。やがて一面マイヅルソウに覆われるようになるのだろう。

この縦走に際して南アルプスも山小屋を営業してくれるといいのになと思ったが、小屋を営業するときっと遭難が多発することだろう。山をつなぐ斜面は案外急で氷化しており、これもまた大きなステップができる北アルプスとは異なる点であった。南アルプス南部縦走はそんなふうに思わせる三つの大きな山の連なりの踏破であった。でも、この登山を振り返ってみると、荒川前岳と中岳の連なりを隣の東岳とひっくるめて荒川三山という名前で呼ぶのはやはりどうみても納得がいかない。荒川前岳と中岳の連なりは荒川東岳(悪沢岳)とは深いコルで分けられ独立した山塊になっているのだから、別の名前をつけてあげればいいのにと思ってしまう。千枚岳も常念岳くらいの高さがあるのにここでは衛星峰のような存在だ。3000メートル峰の一つ一つがでかいからそんな気になるのだが、不遇な存在である。それにしても雪の百名山はなかなかいいものだな。南アルプスは静かな、そして大きな山だ。

「えっ、これって百名山なの? しかも二つもゲット」
えっ、自分たちで計画を立てていく段階で気づかなかったの? まあ、でも山は知らなくてもいい。それよりもいろいろ調べて自分たち自身のことを理解してしっかりした計画を立てられることの方が重要だ。この山行、いろんなことがあって面白かったな。ちなみにもっといろんなことが書けるページを作らんとだめだな……。

幸いなことに三日間で縦走を終えたのでその後四日間降り続くことになる雨には遭わなかった。翌日からずっと雨だったことを思えばラッキーである。台風の影響がこんな形で現れるとだれが予想できたろう。三日目の晩は荒川中岳から一気に下って、椹島ロッジの風呂に入り、ぬくぬくした布団に寝た。

しかし、この山行はリハビリの域を超えた山行だったなあ。まあいいか。ガイド山行はみんな無事というのが何よりだからな……。

写真 南アルプス荒川三山のライチョウ

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深田久弥の「日本百名山」を読むと、「地形図が示す荒川東岳はどうあっても悪沢岳であらねばならない」と書いている。つまり、今回縦走したのは赤石岳、荒川岳、悪沢岳、千枚岳の稜線なのである。実際、これらの山は荒川前岳・中岳と荒川東岳すなわち悪沢岳を分けるコルの深さを考えると、そう呼ぶ方が地形的にもしっくりし、深田久弥の意見に納得するし、賛同もする。荒川東岳は悪沢岳より古い記録だと鍋伏と記されているらしい。鍋伏山なのかな? それとも鍋伏岳? 赤石、荒川、悪沢の三峰はどうやら古くから登られていたらしい。それも伊那谷の方からの講中登山である。これらの山を縦走すれば前岳、中岳、東岳を荒川三山で一まとめにしてしまうのはあまりにも理不尽な呼称だとわかる。ところで、大倉喜八翁が88歳にして赤石岳に登ろうと思った理由はいったい何なのだろう。その二年後には彼は天寿を全うしているのだが……。

ちなみに、日本百名山を読んでいたら塩見岳の項目も目に入り、伊那から三伏峠を越えて、大井川上流へ下り、転付峠を越えて甲州の新倉へ抜けてみたくなった。新田次郎の「槍ヶ岳開山」を読んでいたら笠ヶ岳や槍ヶ岳に行きたくなったというのと同じだな。いつか考えよう。

写真=@赤石岳  A荒川岳と悪沢岳

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先日、「何も死ぬような気象条件のときにわざわざバリエーションルートに行くことはないよ。いいじゃんそこらの藪山でも」と言ったら、普通の人はそんなふうに考えないと言われてしまった。「そうか、藪山もけっこう楽しいし、難しいところもいっぱいあるんだけどな」とフォローしたつもりだったが、相手にされなかった。しかし、そういうものかもしれない。バリエーションルートを登るような人は藪山登山などに興味はなく、考えないものなのかもしれない。きっと危険がたくさんありそうなときでも大きな山のバリエーションルートに行きたくなるものなんだな、ほかの人は。僕は普通の人とは違うからなあ……。

そう思いつつも、僕も気象条件が悪くなると知りながらバリエーションルートを登りに出かけたことがないと言い切ることはできない。それどころか実はたくさんある。でも、そんなときはいつも天気図と首っ引きだった。そんなところに出かけていくときは、天気がどう変化するか掴んでいないと相手に負けてしまう。山での負けは死に等しい。無理にはできる無理とできない無理があることを決して忘れてはならない。

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