首都圏で発生した新型インフルエンザで八王子や川崎はパニックになっているようだが、いつかは直面することだ。でも、鳥インフルエンザほど強毒性ではないので落ち着いて対応すべきだろう。弱毒性と言われる豚でこんなだから鳥だったらすごいことになるのだろう。ネットではタミフルが薬価の四倍くらいで取引されているらしい。山ではパニックになったらおしまいなんだけど、都会では普段危機感を経験しない分だけ大変なことに感じてしまうのだろう。でもすべきことをするだけしかできないし、相手は目に見えないからまったく寄せ付けないというのも難しい。どうしようもないよな。よく食べ、よく寝て健康を保つ。それが一番なんやで。
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月や地球の鮮明な映像を送り続け、宇宙の光景を楽しませてくれた「かぐや」は、6月11日、その役目を終えて月に還るらしい。月の表面からの地球の出は目新しいもので、地球はあんなに美しいものでかけがえのない存在なのだと再認識させてくれた。青い地球の出はかくやがなければ決して見ることができなかったろう。
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新型インフルエンザ患者に対するネット上の中傷がすごいらしい。そんなものに興味がないから見ようとも思わないが、たかがインフルエンザでそれほど書き込みがあるとは……。こんなものは遅かれ早かれいつか批判した本人もかかってしまうで。どこの誰にも優位なんてものはない。下手をしたら後でかかったが故に強毒性のインフルエンザにかかるやも知れぬ。インフルエンザにかかった人間を中傷するような人間はおそらく診察拒否をしているような医者と同じような考え方を持った小心者だろう。
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米疾病対策センター(CDC)のダニエル・ジャーニガン医師によると、豚インフルエンザから変異した新型インフルエンザについて、1957年以前に生まれた人は免疫を持つ可能性がある、と言う。これは採取した血液を分析した結果だということだが、微妙なラインだ。実際、老齢者は重症化しにくい傾向があるからこれが事実なら朗報だ。もちろんこのラインを超える年齢なら。
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特定の食品を食べてやせることはない――。ごく当たり前のような話しが載っていたが、バナナダイエットのおかげでバナナの値は上がるし、店頭から消えるしで大変な勢いだったことを思うとおかしさもこみ上げる。ダイエットの基本は摂取エネルギーを消費エネルギー以下に抑えるしかないというのが結論だが、実際その通りだ。たくさん食べても激しく動けば痩せていく。あるいは体が締まっていく。
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インドアからアウトドアへ。そんな流れがあるようだ。でも、初めてのマルチで危険と表裏一体の行動をしているのを見ていると少しばかり不安になる。山での失敗は一度で人生がおしまいということもありうるから。本当はすごく危険なことをやっているのに危険だということそのものをあまり感じてはいないようだ。インドアは力がつく。力があれば無理ができる。でもアウトドアの危険はあまり知らない。インドアからアウトドアへの流れは歓迎するが、力と自分が描くイメージのバランスが破綻したときは大きな事故になるのだろうなという感じがする。三つ峠ではそういう人を見かけることが多くなった。
三つ峠で基本的なクライミングを学ぶ。実際、三つ峠って初心者向きの楽しい岩場、だよな。もっと三つ峠に行こう。
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穂高に入るかどうか、久しぶりにまじめに検討した。というのも上空に寒気が入ることになっていたからである。検討の結果、初日はきっと雷雨があるだろうが、二日目はその寒気も抜けてすっきりとはいかないまでも登ることはできるだろうと判断した。
上高地はカラマツの新緑がまばゆい。平日なのにけっこう人がいるのはそんな時期だからだろうか。横尾まではもちろん、本谷橋までは雪がない。が、涸沢の登りから雪が出てくる。山はだいぶ雪が減ったような気がするが、涸沢はまだまだ雪の中だ。初日の天気はかんきでの影響で雷がなるのではないかと思っていたのだが、案の定雷がなって雨が降った。この雨は3000メートルでは雪だったようだ。山稜が薄っすらと新雪に染まっていた。ここまでは想定内だが、明日も想定内であることを期待する。雨や雷の中、前穂高岳の北尾根を登りたくはない。もっとも雨模様なら登らないけど、僕の予想は曇り程度だ。もちろん雷はない。が、午後は余りよくはないだろう。
前穂高岳の山頂は雲の中だが、まあまあ登れそうな天気である。ほかに競合するパーティーなどないだろうから気が楽だ。XYのコルから上部を目指すがさすがに稜線は雪が少ない。が、X峰は中途半端に残っているし、腐り気味だ。W峰はほとんどない。VWのコルは風が強い。まあ、この天気ではしようがない。が、これ以上強くならないで欲しい。しかし、風に含まれる水蒸気はエビの尻尾を作る。五月も終わりだというのにしだいに岩が白くなる。V峰の登りってこんなに長かったっけ。ほんの少しコルぽくなってU峰の登りになる。U峰って案外トラバース気味に登っていくんだな。何度も登っているのに全然気にしてないから忘れている。U峰のピークは岩稜でその先のコルへクライムダウンする。コルからは一登りすると前穂高岳の頂上だ。冷たい風のおかげであちこち白くなった。当然ながら視界はない。明神へと向かい、奥明神沢を下る。風にはもはや冬の勢いがなかったが、天気が悪いと頂上付近ではやはりエビの尻尾ができるんだなあ。沢を下っているときには雪が舞ったので、うまい具合にもっとひどい状況には巻き込まれなかった。岳沢はまだまだ春浅いが、ダケカンバは芽吹きの直前に到達していた。岳沢から上高地へ下るとやはり春たけなわという印象だった。実際、上高地から横尾の間はニリンソウ、やエンレイソウ、サンカヨウなどの花に包まれていた。
雷の判断は大当たりだったが、どうやらクライアントも雷の側劇を受けたことがあるらしくて、そのときは手がしびれたそうだ。僕は雷に当たったことがあるといったら驚いていたが、もうずいぶん昔の話だ。このときはガイド中でそばにリーダーのガイドがいたのだが……。今考えてもずいぶん悲しい思いだな。人間ってどこまで信じられるのか。山はいろんなことがある。
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木本さんって低山に行くことはほとんどないんじゃないですか? そんなふうに聞かれた。エベレストなどの高所やら難しい登攀ルートを登りに行っている一面からそう思うのだろう。でも実際は低山にもすごく登りに行っている。何しろもともとは藪山育ちだから、険しい山より低山の方がずっと好きなんだもの。だいたい藪山を彷徨するのが好きな人間だから、頂上に立たない山だろうと気にしないし、まったく知らないところに行くのが好きだし、登山道と仕事道の違いもすぐに分かってしまう人間だし、いくらでも早く歩けるからこれでもけっこう低山藪山を跋扈しているのである。登り口から頂上に行って反対の登り口に下ってまた戻ってくるなんて馬鹿なこともやっているもの。低山はそういうことができる。だいたい地形図が読めるからどんなところでも行けてしまうから低山は登山コースを外れることが多い。実際、探検ごっこというのがすごく好きで、知らないところを行くのが大好きな人間なのである。だから低山は低山で自分のやり方でそれなりに楽しんでいるというのが本当なのである。近場の山なら地形図は家で眺めるだけで、地形図は持たずに出かけるのが普通だ。迷ってもそこから引き返してこれるから、迷ったら迷ったで家に帰ってまた地形図を眺めて、どこで迷ったのか確認して、また出かけるのだ。そんな遊びが面白い。山は迷わないとつまらないだろう? 地形図を持っているとまず迷わないから山に行ってもぜんぜん面白さがないのだ。実は、そんなふうに考えているちょっと変なヤツなんだよね。僕って人は。だから普通の登山者と一緒にすると面食らうかもね。海外登山に行っても日本と同じことをする。実際、BC周辺の裏山にはよく一人で出かけるよ。子どものころからそうやって、地図も持たずに山に入って、迷いながら既知の範囲を広げるようなかたちで山遊びをしていたから僕には地形図は不要なのだ。地形図があると本当に迷わないから面白くない。あのわくわくどきどきというのは地形図を持っているとまったくないんだよね。実際、低山や裏山っていうのはそうやって遊ぶのがいいんだよ。それは低山じゃなくても同じなんだけど、大きな山の場合は時間的な制約があってそんなふうにできないから、とりあえず地形図は持っていくけど、一般コースならまず地形図を見ることはない。だって迷わないもの。迷うところなんてないもの。人が踏んであるところはまず迷わない。迷わないところに行っても面白くないんだよなあ。だから、地形図は持っていかない――。そんな遊びをやってみたらどうですか? 地図読みがとてもうまくなるよ。本当に。
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どの本を見ても読図では「正置が大切」と書いてある。それに地形図には「磁北線を引いておく」とも書いている。僕はそのいずれもしたことがない。冬の平坦地のホワイトアウト状態ならそれもいいかなと思うけれど、夏はその必要を感じないし、実際にそうしておくことが必要になったことは一度もない。アメリカで2泊3日の単独ハイキングで145キロほど歩いたときもその必要は感じなかった。ネパールでも、チベットでもそうだった。見ず知らずの土地を歩くのに地形図に磁北線を引いたり、コンパスを正置したという経験がない。でも、地形図はよく使う。見るのも、使って歩くのもすきだから。地形図を見ていると自分が想定コースをどのくらいの時間で通過できるか予想がつく。読図って道を探すんじゃなくて、道を確認する作業で、だいたいのことが分かっていればいいような気がする。実際、それでことが足りるのだ。なんせ今までそれでことが足りなかったことなどないのだ。正置するより地図が読めることのほうが大切だと思う。登山で必要な地図読み、すなわち読図は決して正置から始まるわけじゃない。地図が読めれば正置はよほどのことがない限り必要ない。読図の本を読んでいてそう思った。
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寒冷渦=上空に寒気を伴った低気圧=寒冷低気圧、切離低気圧とも言う。同じ高度では低気圧内の方が周囲よりも気温が低い。上層ほど低気圧として明瞭に解析される。ジェット気流とは隔てられているため動きが遅い。そんな低気圧の影響で悪天が続いている。そんな条件の中谷川岳一ノ倉沢に岩登りに行った。予想通り土曜日は何とか登ることができたが、日曜日は残念ながら動きの遅い低気圧が北上してきたため、谷川岳は雨に見舞われ、一ノ倉沢で岩登りをすることができなかった。雨のおかげで一ノ倉沢の見通しはよかったが、国境稜線は雨雲の中であった。旧道沿いは新緑に包まれいい感じだったし、岩場にはハクサンイチゲやイワカガミやツガザクラなどの花がたくさん咲いていたから登りたかったのだが、この雨では岩登りを諦めるよりほかになかった。残雪はいい感じで残っていて、アプローチはとても楽な状態なのだが……。でも、こんな不安定な天気の中で烏帽子ダイレクトを登っているパーティーがいて感激した。やはりアルパインクライミングに興味を抱くクライマーを見ると嬉しくなる。そういえばそろそろクサイチゴが熟す時期だなあ。サクランボ狩りの前にクサイチゴ狩りに行ってこよう。いよいよ木々の緑も濃くなって夏という雰囲気になってきたな。ついに六月だが、初日が岩登りから始まるというのは嬉しいことだ。沢登りはどこに行くかな? 明日には返事をしないとまずい。竹も切りに行かないと。もちろん沢で遊ぶために……。
筋肉を破壊して新しく作るというのは新たな発想だなという気がする。実際そうするのが手っ取り早い。