ついに沢登りの季節がやってきた。初日は雨が降る生憎の天気であったが、沢を登り、沢を下った。沢を登るのは案外やさしいが、通行を遮る滝の中にやさしいルートを見つけるのは存外難しい。特に下りは滝をすべて見ることができないことが多いから難しさは倍加する。見えない部分をどう判断するか。それにはクライマーの技術力、想像力がものをいう。
幸いに無事遡下行を終え、下山したときには雨は止んでいたが、下流の川の水はこのところの雨で少し増水していた。遡下行を終えたら今度は魚を手づかみする番だが、魚を手づかみで捕まえるには生憎の状況であった。しかし、何とか人数分プラスアルファのヤマメを捕まえて意気揚々とベースに戻る。魚を手づかみするのは面白いが、水が冷たく長時間行うのは困難だ。大き目のやつばかりに形をそろえたかったが、さすがに水の冷たさはそんな気を奪う。だが、嬉々として挑戦した結果、皆が山の幸を味わうに十分な収穫を得た。こうなれば早めにベース予定地に戻ってテントを設営し、焚き火をするしかない。
沢は焚き火をしないと面白くない。そう思っているのは僕だけではないから、焚き火はお任せだ。その間に魚の下ごしらえや鍋の下ごしらえを分担する。
炊事の場所を焚き火のそばに移動させると、宴会の準備は万端だ。山登りはなんと言っても汗をかく。冷えた体を外から焚き火で温めながら、まずはビールで今日の無事を祝って乾杯だ。さらに生酒で体を中から温めつつ、鍋料理をつくる。そして鍋をつつきながら、酒を飲む。焚き火でうまい具合に塩焼きにしたヤマメは燗をつけた日本酒の器にぶっこんで骨酒にする。少々荒っぽい作り方だが、辛口の酒に塩焼きのヤマメの香ばしさが加わってとてもおいしい酒になった。焚き火は身も心もすっかり温めてくれ、楽しい一夜はわいわいがやがや刻々と過ぎていく。やがて雲が切れ、真上には大きな柄杓が現れた。
翌日、朝方はガスっていたが、やがて晴れ間が覗き、日差しは木漏れ日の中に新緑の目映ゆさを際立たせる。昨日同様沢を登り、沢を下る。小さな沢でもやりようによっては楽しめる。滝は攀じ登るよりクライムダウンをする方が難しい。だから登りも下りも案外大変だ。でも、まだ水が冷たくてシャワークライミングをする気になれなかったのがちょっと残念だ。クライムダウンをするのが難しくて懸垂下降で下った滝も、もう少し気温が高く暖かければ水際を登り返すのだがなと思いつつ滝をあとにしたが、やはり少々心残りだ。もちろんそんな気がするのは登りも下りも滝は全部登りたい、クライムダウンしたいという気持ちがあるからだが、条件が悪いときに何も無理をすることはない。
二日目は天気がよかったせいか気温が上がったのだろう。林道の道端にヘビがいた。ヤマカガシはまだ幼いヘビだったが、シマヘビはそこそこの大きさだった。もし僕の腹が異常に減っていたらそんなにのんびりはしていられないぞとヘビを脅したところで逃げ出す気配はない。沢から下りてきたら空気が暖かく感じたが、この暖かさにヘビも日向ぼっこを決め込んだものなのだろう。若干ヘビの動きが鈍かったのは沢筋の空気がまだひんやりしていたからに違いない。この暖かさが何日か続けばきっと水も温むだろうが、それはもう少し先のことのようだ。昔はヘビを見るとすぐに手が出ていたが、最近は出なくなった。ヘビやトカゲはよく見るとかわいいんだよな。
今日も無事沢の遡下行を終え、仕上げは冷えた体を温泉で温める。この時期のこの二日間の天気としてはまあまあだったと言えるだろうが、この二日間目いっぱい山で、沢で、川で遊んだ。温泉で温まった体に心地よい疲れが眠りを誘う。
山は楽しまなくっちゃね――。山はいろんな楽しみ方ができるのがまた面白い。登って下りるだけが山ではないのだ。ところで皆眠そうだったが無事家に帰りついたのだろうか? もしかしたら電車で寝過ごして、下車駅を通りすぎてしまったなんてことになっていはしないだろうか……。
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沢登りの面白さは出くわした滝のどこが登れるか考えるところにある。それはいちばんやさしそうなラインを選ぶということでもある。そこが登れるかどうかはクライマーが持ち合わせている登攀技術と対比しなければならない。登れるものなら自らの力で登ってみてもいい。登れないならロープをつけてトップロープ状態で登攀する判断を自ら下す。でも見ていると、登れると判断を下してもルートファインディングがいまいちのときもある。また登り方が不安定に見えるときもある。そんなときは迷わずドクターストップを宣告し、トップロープ状態で登ってもらう。
沢登りで学ぶべきものは自らの力を自ら正確に測る、正確に判断するということだ。相手を知り、自分自身を知り、正しい判断を下すのは案外難しい。判断を誤れば墜落や滑落の危険を抱えたまま滝に挑むことになる。そうなれば万が一のこともありうる。これが下時ともなるともっと難しい判断を迫られる。クライムダウンはルートファインディングも下降中にバランスをとるのも難しくなるので事故が発生する可能性が高くなる。でも正しい判断力を養うにはこれがいい。滝がロープなしで登れないことも下れないことも全然恥ずかしいことではない。ならばどうやって安全に登るか。それを考え、正しい判断を下せることこそがとても大切なのだ。
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奥穂高岳から岳沢へ向かう途中で滑落事故があり、60代女性一人が死亡した。山岳ガイドに連れられて行動中の事故だったと報道は伝えている。ガイド山行が必ずしも安全なものではないという事実は悲しいことだが、これまでのガイド中の遭難事故発生件数の多さはそれを如実に表している。油断めさるな。僕もあなたも――。
そんな気持ちになってしまうが、いったいどんな状況下で事故が起きたのだろう。奥穂高岳から天狗のコルを経て岳沢へ下る途中の事故だからもちろん墜落や滑落の危険がある稜線を通過中に発生した事故である。全員で5人と言うことだからガイド1人にクライアント4人ということである。クライアントが400mも滑落して死亡してしまったのだから、もちろんガイドとクライアントは少なくともこの時点ではロープをつけずに行動していたということになる。事故の詳細はやがて明らかになっていくのだろうが、報道が伝える状況は少なくともガイドがクライアントの墜落・滑落に備えるという態勢で行動していたのではなかったということを浮き彫りにしている。
山では死はどこにもある。その死の確率を下げ、限りなくゼロに近づけるのがガイドの役目だろうが、その役目を果たすにはどんなときにはどう行動すればよいか考えていなければガイド中の事故が減ることはないだろう。どんな形の死であれ、山で死ぬのはもったいない。この事故、どうやらガイドもクライアントも僕が顔を見知っている人のようである。こんなときばかりはさすがに予想が外れくれればいいが、と思う。でも一つ一つ調べていくと状況は悲観的で、おそらく間違いはないだろうと思わせる。
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気象庁は9日、東海、近畿、中国、四国、九州の各地方が梅雨入りしたとみられると発表した。すでに梅雨入り宣言をしていた沖縄と奄美地方に続くもので、それぞれ平年より1〜11日遅く、昨年より12日遅いそうだ。梅雨入りが遅れた要因について、気象庁は「太平洋高気圧の勢力が平年に比べて弱く、梅雨前線が押し上げられずに日本列島から離れていたため」と説明している。これはまた太陽の活動が沈静化しているせいかもしれない。各地方は今後1週間、曇りや雨の日が多い見込み。関東甲信地方は11日にも梅雨入りする見通しなのだというが、明日は雨か曇りか。
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予想が外れてくれればという期待も空しく、残念ながら事故で亡くなったのは顔見知りの人であった。知っている人が亡くなるのはつらいが、もはや何を言っても遅く、安らかにお眠りくださいとしか言えない。心よりご冥福を祈る。
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40歳時の体格によって余命に大きな差ができるという。もっとも長生きできるのはやや太めの人(BMI=体重÷(身長×身長)=25以上30未満)で、その余命は男性が41.64年、女性が48.05年だ。最も短命なのはやせた人で、やせた人(同18.5未満)の余命は男性34.54年、女性41.79年だ。やせた人には喫煙者が多いことも関係しているそうだが、原因はさまざま考えられるという。普通の人(同18.5以上25未満)の余命は男性39.94年、女性47.97年である。いずれにしても僕の余命には限りがある。あと何年残されているのだろうか。この先どう生きるかね? ちなみに肥満(同30以上)に分類された人は男性が39.41年、女性が46.02年で、太っているほど生涯の医療費が嵩むそうだ。できれば生きているというだけではなく、活動的でありたいものだよな。
活動的と言えば、明日は活発に情報を探っていた月探査衛星「かぐや」が月に落ちて命尽きる日だ。「かぐや」が撮影した「地球の出」は神秘的で、月に行って一度見てみたいものだと思った。地球は宇宙の中でも例外的にきれいな星だ。水があると言うのは本当にすごいことなんだなと思わせられる。まだ見ていない人は一度見てみるといい。「かぐや」の観測データは11月1日からHPで公開される。
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レンタルサーバーで何ができるか、何がしたいか。まずはログインHPだな。自分が使うための自分用の、自分が使うためだけのHPの開設だ。他に会員用のHPの開設だな。HP容量に余裕があれば写真もたくさん載せることができる。ログインHPなら一部の人に公開するだけだからけっこういろんなことができそうだ。ログインHPなら登山記録にしても突っ込んだことも書ける。そんなHPを不特定多数に公開する必要などない。一般公開は今のHPの容量でも十分だ。いずれにしてもいろんなことができそうだ。あとでゆっくりサーバーの使い方を見ながら考えてみよう。
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気象庁は10日、関東甲信、北陸、東北南部が梅雨入りしたとみられると発表した。関東甲信は平年より2日遅く、昨年より12日遅い梅雨入りだ。北陸は平年と同じで昨年より9日早く、東北南部は平年と同じで昨年より12日早い。11日には東北北部も梅雨入りしたので、はっきりした梅雨のない北海道を除き、日本列島は全域で梅雨に入った。