アルコールと肝臓

アルコールを飲むのが多くなる季節となりました。肝臓にとってアルコールは、処理が義務づけられている薬物の1つです。このため、アルコールが体内に入ってくると肝臓は、アルコールがゼロになるまで代謝し、分解し続けます。アルコールを代謝・分解する際には、さまざまな要因が加わって、栄養素を代謝するときとは異なる働きや形の変化が、肝臓を構成する細胞(肝細胞、類洞壁細胞)におこります。この変化は一過性のもので、アルコールがゼロになれば正常な状態にもどるのですが、大量のアルコールを飲むほど、長時間、肝臓の細胞の変化が続くことになります。毎日、大量のアルコールを飲み続けると、アルコールを分解する酵素の働きが活発になり、より多量のアルコールを飲めるようになります。その結果、肝臓の細胞の変化が恒常的に続くようになり、ついには、肝細胞の変性・壊死と、細胞間質細胞の線維化がおこり、肝臓のはたらきが衰えてきます。これがアルコール性肝障害で、おもにアルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変の4つの状態があります。  アセトアルデヒドを処理できない人(アルデヒド脱水素酵素2型欠損者)は、お酒を飲めないので、通常、アルコール性肝障害になることはありません。しかし、なかには、少量であればアルコールを飲める人がいます。これは、アルデヒド脱水素酵素2型の部分的欠損者です。こういう人が常習飲酒者になると、アルデヒド脱水素酵素2型を完全にもつ人よりも、より少ない量で、アルコール性肝障害が発症してきます。
①アルコール性脂肪肝
 中性脂肪(トリグリセリド)が、肝細胞内に蓄積した状態です。原因は肝臓が、アルコールの処理を優先して脂肪の代謝を後回しにするために、代謝されない脂肪が肝細胞にたまるためです。症状
のないことが多く、検査での高脂血症の存在、γ‐GTPやGOT上昇などで発見されることが多いものです。右上腹部鈍痛、食欲不振や吐き気がみられることもあります。確定診断は、生検で肝細胞への脂肪の沈着を証明することですが、腹部の超音波検査やCTでも脂肪肝が見つかり、診断できます。治療は禁酒を守れば脂肪の代謝が改善され、完治します。
②アルコール性肝線維症
 常習の飲酒によって類洞壁細胞の1つが活性化して線維が増殖してきた状態です。日本ではこの状態を示すアルコール性肝障害が多くなっています。治療としては禁酒によって病気の進行を阻止することができます。高たんぱく・高ビタミンの食事療法と肝庇護剤(パンテチン、グルタチオンなど)の服用が必要なこともあります。
③アルコール性肝炎
 肝細胞の変性・壊死に炎症性の変化をともなっている状態です。症状の軽い人から劇症肝炎のような重い症状を示す人までさまざまです。多くの場合大量飲酒が連続したときに発症し、入院を必要とします。全身倦怠感、食欲不振、吐き気・嘔吐、黄疸、肝臓の腫れなどの急性肝炎に似た症状のほか、発熱などの炎症症状、腹痛・下痢などの消化器症状をともないます。重症になると、ひどい全身倦怠感・吐き気・嘔吐、吐血、意識障害、高度の黄疸、出血傾向、腹水などが現われます。劇症肝炎のような経過をとって、1か月以内に死亡することもあります。血液検査を行なうと、白血球の増加がみられ、血小板が減少し、ビリルビンが高値を呈します。またGOTが高く、GPTの上昇は比較的軽度である傾向を示します。出血傾向がみられ、プロトロンビン時間が延長します。重症例では急性腎不全(肝腎症候群)をともなうこともしばしばです。禁酒を行なったうえで、安静を保ち、輸液で脱水と電解質異常を改善します。劇症肝炎の状態では、副腎皮質ホルモン薬の使用、グルカゴン・インスリン療法、血漿交換などが必要になります。多くの場合、治癒後もアルコール依存症の治療が必要となります。
④アルコール性肝硬変
 過度の飲酒が原因でおこった肝臓病の終末像です。男性は日本酒換算5合以上20年で、女性は3~5合以上約10年で肝硬変になる危険性があります。女性は、男性に比べると、少量で、しかも短い飲酒期間でおこってきます。大酒家の肝硬変の約半数に肝炎ウイルス、とくにC型肝炎ウイルスの持続感染の合併がみられます。この場合、アルコールだけが原因でおこった肝硬変よりも肝がん発生の危険率が高くなります。禁酒を守り、ほかの肝硬変と同じように治療します。