過換気症候群

過換気症候群(Hyper Ventilation Syndrome)とは、精神的な不安によって過呼吸になり、その結果、手足や唇の痺れや動悸、目眩等の症状が引き起こされる心身症の一つです。このとき血液がアルカリ性に傾き、呼吸性アルカローシスとなっています。一般に過呼吸と称されるものとの違いは原因が「精神的な不安」にあることであり、過呼吸症候群は呼吸を多く必要とする運動の後に起こるという点が異なりますが、発症後の症状はほぼ同じです。発症しやすい人としては几帳面・神経質な人、心配症であり、考え込んでしまう人、10~20代の若者、自己犠牲の多い人などがあげられます。
症状としては息苦しさ、呼吸が速くなる(呼吸を深くすると胸部に圧迫を感じる)、胸部の圧迫感や痛み、動悸、目眩、手足や唇の痺れ、頭がボーとする、死の恐怖を感じる、(まれに)失神などがあります。息苦しさ、顔や手足のしびれやけいれん、頭がボーッとするといった過換気症候群の症状は、不安や悩みなどの心理的なものが原因とされていいますが、同じ息苦しさでも肺の機能不全などによって起こる過呼吸症候群などもあり、違いを知っておく必要があります。肺機能が低下した場合は、呼吸ができず酸素が不足するので、きわめて危険で死亡する場合もあり、酸素吸入などの処置を行います。ところが、過換気症候群の場合は、酸素の量が増大することによって起こる息苦しさなので、死ぬようなことはありません。しかしまれに心臓発作などを誘発し死に至るケースがあります。
 過換気症候群は、呼気からの二酸化炭素の排出が必要量を超え動脈血の二酸化炭素濃度が減少して血液がアルカリ性に傾くため、息苦しさを覚えます。そのため、無意識に延髄が反射によって呼吸を停止させ、血液中の二酸化炭素を増加させようととします。しかし、大脳皮質は、呼吸ができなくなるのを異常と捉え、さらに呼吸させようとします。また、血管が収縮してしまい、軽度の場合は手足の痺れ、重度の場合は筋肉が硬直します。それらが悪循環になって発作がひどくなっていくのです。
 発作時に、動脈血の酸素濃度と二酸化炭素濃度を病院で調べれば、診断は容易につきます。これは少量の採血で即刻(1分間)診断されます。発作時には血中の二酸化炭素濃度が異常に下がり、逆に酸素濃度は高くなっています。
 対処法としては呼吸の速さと深さを自分で意識的に調整すれば2~3分で自然に治まります。このことを利用し、万一発作が起きた場合は、介助者は何もせずに、大丈夫だ、安心しなさいと、患者を落ち着かせ、息を吐くことを患者に意識させ、ゆっくりと深呼吸をさせる(「吸う:吐く」が1:2になるくらいの割合で呼吸する。一呼吸に10秒くらいかけて、少しずつ息を吐く。また息を吐く前に1~2秒くらい息を止めるくらいがベター。胸や背中をゆっくり押して、呼吸をゆっくりするように促す)などの呼吸管理によって、二酸化炭素を増やしながらも、酸素を取り込んで、窒息しないように呼吸管理をすることが、推奨されています。かつては紙袋などに口・鼻をあて、吐いた空気を再度吸い込むという行為をくり返し、血中の二酸化炭素濃度を上げる方法(ペーパーバッグ法)がしばしば試みられました。この場合、酸素不足にならないよう、少し隙間を作っておくなどの配慮が必要で、その加減が難しく、袋を用いる方法は有効性よりもむしろリスクの方が大きいという意見もあります。誤った処置(袋をぴったりと口・鼻に当ててしまい、外気を遮断してしまうなど)により、発作時には、酸素が多すぎた状態から、一気にバランスが逆転し二酸化炭素が多くなり過ぎて、窒息死に至ったケースも報告されています。また頻呼吸や過剰呼吸が見られるのは過換気症候群だけではなく、例えば肺水腫で呼吸が乱れているときにペーパーバック法を行なうと症状が悪化し、時に死をもたらすので、慎重な鑑別診断が必要となります。突然の過呼吸発作のため不安になって病院に駆け込んでくるような人には、不安が強すぎるためにペーパーバッグ法だけでは発作がなかなか治まりません。このような場合には、精神安定剤の注射が非常によく効きます。どんな心身症にも言えることですが、病気について主治医から詳しい説明を受け、とりあえずこの病態について知識をしっかり身につける事が大切です。発作用にいつも精神安定剤の頓服を携帯するという手段など様々な安心方法を身につければ、しだいに過呼吸発作が怖いものでなくなってくるでしょう。