不眠症

不眠症は、睡眠のための環境が整っているにもかかわらず、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などの不眠症状を来たし、それによって日中の各種活動に支障を来している状態と定義されます。しかし眠れないという人の中には,必要以上に長く臥床していて不眠と感じている場合があります。国民全体として1日平均7時間42分睡眠をとっており、高齢になると睡眠時間はさらに延長します。一方、生理的に必要とされる睡眠時間は高齢になると減少するといわれていることから、高齢者は必要以上に長時間臥床している可能性が高いのです。
 不眠症の治療はまず、生活面の改善です。ベッドに入る目的を睡眠に限り,起床時間を常に一定することなどからなる刺激制限法、必要以上に臥床時間を延ばさない睡眠時間の制限に強い効果があるとされています。高齢者では次の不眠に対する非薬物療法が勧められます。
1.睡眠時間はひとそれぞれ、日中の眠気で困らなければ十分。個人差もあり、8時間にこだわらない。歳をとると必要な睡眠時間は短くなる。
2.刺激物を避け、寝る前には自分なりのリラックス法。就床前4時間のカフェイン摂取、就床前の喫煙は避ける。軽い読書、音楽、ぬるめの入浴など、自分なりのリラックス法を心がける。
3.眠くなってから床につく,就床時刻にこだわりすぎない。眠ろうとする意気込みが頭を冴えさえ寝つきを悪くする。
4.同じ時刻に毎日起床。早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる。
5.光の利用でよい睡眠。目が覚めたら日光をを取り入れ体内時計をスイッチオン、夜は明るすぎない照明を
6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
7.昼寝をするなら15時前の20~30分
8.眠りが浅いときは,むしろ積極的に遅寝・早起きに
9.睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のピクつき・むずむず間は要注意
10.十分眠っても日中の眠気が強いときは治療が必要の可能性がある。長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医の治療が必要があることがある。
11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全。一定時刻に服用し、就床、アルコールと併用しない。
 薬物療法としては睡眠導入剤、抗うつ剤、抗不安剤、漢方薬などが用いられます。超短時間型としてはトリアゾラム(ハルシオン)、ゾルビデム(マイスリー)、エズゾピクロン(ルネスタ)があり、短・中時間型としてブロチゾラム(レンドルミン)、フルニトラゼパム(ロヒプノール)、長時間型としてクアゼパム(ドラール)、フルラゼパム(ベノジール)があります。このうちマイスリーとルネスタは非ベンゾジアゼピン系薬です。抗うつ薬としてクアゼパム(テトラミド)、トラゾドン(レスリン)、メラトニン受容体作動薬としてラメルテオン(ロゼレム)、オレキシン受容体拮抗薬としてスポレキサント(ベルソムラ)があります。高齢者や、入眠障害、中途覚醒にはベルソムラが良い適応で、早朝覚醒には抗うつ薬やドラールなどが有効です。また意外に漢方薬が副作用もなく有効であることが多いです。