下肢静脈瘤

下肢静脈瘤とは足の表面にあるたくさんの静脈(表在静脈という)が拡張し、蛇行(だこう)屈曲して浮き出た状態です。静脈弁の機能不全による一次性静脈瘤と、生まれつき静脈が拡張している先天性静脈拡張症のような二次性静脈瘤に分けられます。ほとんどは一次性で、立ち仕事の多い女性に多く現れ、足を挙上する(高く上げておく)ことによって改善します。夕方に目立ちますが、一晩寝ると朝には消失していることがほとんどです。下肢の表在静脈だけでなく、精索(せいさく)、食道下部、直腸肛門部の静脈にも現れることがあります。静脈弁の機能不全によって起こる一次性の静脈瘤の原因としては、もともとの静脈壁の構築の弱さだけでなく、遺伝的要因や妊娠、肥満、立ち仕事といった要素の関連も指摘されています。下肢の静脈が太く、浮き出ているものを「下肢静脈瘤」といいます。静脈瘤の多くは太くなっているばかりではなく、曲りくねっています。また同じ静脈瘤でも太さはいろいろです。静脈瘤のなかでも「伏在(ふくざい)静脈瘤」は、最も太く、約7割がこのタイプの静脈瘤です。さらに血管の太さが1~2mmくらいの「網目状静脈瘤」、血管の太さが1mm以下の「クモの巣状静脈瘤」と分けられます。
 たくさん静脈瘤ができていても全く症状のない人もいますが、静脈瘤ができると、「あしがむくむ、だるい、重い、痛む、ほてる」などの症状が出やすくなります。あしの筋肉がつる、いわゆる「こむら返り」もおきやすくなります。症状が重くなると湿疹ができたり、色素沈着、潰瘍ができます。
静脈瘤の誘因は、「立ち仕事、出産、遺伝」です。お母さんや姉妹に 静脈瘤がある女性に静脈瘤ができやすく、妊娠をきっかけに静脈瘤ができ、立ち仕事に従事したり、年齢がすすむにつれ静脈瘤が進行します。
 血管には「動脈」と「静脈」があります。心臓からでた血液は、動脈を通って体の隅々にいきわたり、その後は静脈を経由して心臓に戻ります。あしでは、深いところを走る「深部静脈」と皮膚表面近くを走る「表在静脈」を経由して血液が流れます。表在静脈の代表が「大伏在静脈」と「小伏在静脈」です。また、深部静脈と表在静脈は「交通枝(穿通枝)」という短い血管でつながれています。血液が心臓へ戻ることを「静脈還流」といいますが、この静脈還流には静脈の内側にある「弁」が大きな役割を果たしています(左図)。2本足で立って生活している人間では血液はその重みで下の方へ戻ろうとします。この下への逆流をくい止めているのが静脈の弁です。断面でみると、弁はハの字型をしているため、上向きには血液が流れても、下へは流れない一方通行の流れをつくっているのです。この静脈弁の機能不全が生じると、静脈瘤ができてきます。多くの静脈瘤は、表在静脈(とくに大伏在静脈や小伏在静脈)の弁が壊れて発生します。弁が正常に働かないと、血液は逆流することになり、あしの下の方に血液が溜まり、その結果、静脈は拡張し、静脈瘤ができてきます。右図の左は正常な血液の還流、右は静脈瘤の場合の血液の逆流を示しています。深部静脈血栓症の結果静脈内圧の上昇のため弁が壊れ静脈瘤が出来る場合もあります。
下肢静脈瘤の治療法としては次のようなものがあります。①保存療法(圧迫療法);医療用の弾性ストッキングや弾性包帯で、下肢に適度な圧力を与えることで下肢に余分な血液がたまることを予防し、下肢の深部にある静脈(深部静脈という下肢静脈の本幹)への流れを助けます。医療用の弾性ストッキングは、医療施設で取り扱っているものが効果的です。薬局やスポーツ店で販売しているストッキングやサポートグッズは、効果的には劣ります。以前と比べ、現在の医療用弾性ストッキングは、デザイン的にも改良されサイズや仕様にも選択肢が増えてきました。しかし弾性ストッキングなどによる圧迫療法は、あくまでも進行防止・現状維持が目的で、下肢静脈瘤そのものが治るわけではありません。しかし、下肢静脈瘤の治療上とても重要です。②硬化療法;本来なら、手術で引き抜いたり縛ったりしてしまう静脈の中に、硬化剤という薬剤を注入し、静脈の内側の壁と壁をくっつけてしまったり、血栓(血のかたまり)をつくり詰めてしまう方法です。硬化療法だけで、すべての下肢静脈瘤が治療できればよいのですが、軽度の静脈瘤以外には有効とはいえません。③ストリッピング手術(静脈抜去手術);下肢静脈瘤の根治的な治療法として古くから行われている手術で、弁不全をおこしている静脈を引き抜いてしまう手技です。施設により異なりますが、入院の場合(5~7日)は、全身麻酔あるいは下半身麻酔下で行います。また最近では、外来日帰り手術を行っている施設もあります。この方法は再発率が低く、一番確実な治療法です。ただしこの手術は、静脈を抜去しますので、まわりにある知覚神経にダメージを与えることがありますので、注意が必要です。また最近では、硬化療法を併用するケースも増えています。④高位結さつ手術+硬化療法;静脈を引き抜くかわりに、弁不全をおこしている静脈と本幹(深部の静脈)の合流部を縛ったうえで、切り離してしまう治療法です。日帰り外来手術が可能です。最近では、硬化療法との併用が多く施行されています。硬化療法には、通院でできる、簡単である、体への影響が少ない、という利点があります。しかし、ストリッピング手術にはどんな大きな静脈瘤でも確実に治療できるという利点があります。大きな静脈瘤や潰瘍をつくっている患者さんにはストリッピング手術が向いています。⑤レーザー治療・弁形成術・内視鏡使用の手術;下肢静脈瘤のなかでも、もっとも軽いタイプの網目状・くもの巣状とよばれる静脈瘤に適してします。しかし、治療施設や症例数もまだ少ないことや日本人の肌に合わないといわれていることから施行後に「火傷」のようになるケースもあるようです。施行成績はまだ一定しておらず、安定までにまだ時間を要するようです。不全弁を作り直す弁形成術や血管内視鏡を使う手術も同様です。⑥静脈内レーザー治療術;静脈内にレーザープローブを挿入し、静脈内側をレーザーで焼灼する高度な最新の手術方法です。
 日常生活での注意点として次のようなものがあります。 1)下肢に血液が溜まらないように、長時間の連続した立ち仕事はさける。立ち仕事中は1時間の仕事に5~10分間は、あしを心臓より高くして休息します。休息がとれない方は、足踏みをしたり、歩き回ったりしてください。あしの筋肉を使うと、筋肉のポンプ作用で静脈環流がよくなります。2)夜寝るときには、クッションなどを使用しあしを高くして休みましょう。3)立ち仕事や外出のときには、弾性ストッキングをはいてください。4)下肢の清潔を保ちましょう。