便秘

便秘とは、便中の水分が乏しく硬くなる、もしくは便の通り道である腸管が狭くなり排便が困難または排便がまれな状態をいいます。通常は1日1-2回の排便がありますが、2-3日に1回の排便でも排便状態が普通で本人が苦痛を感じない場合は便秘といいません。しかし毎日排便があっても便が硬くて量が少なく残便感がある場合や、排便に苦痛を感じる場合は便秘といえます。便秘を引き起こす腸管の機能的異常の要因には「不規則な食事・生活」「食物繊維・水分・脂質などの摂取不足」「低栄養」「ビタミン欠乏症」「全身衰弱」「緊張・恐怖・悲しみなどの精神的要因」「神経障害」「浣腸や下痢の乱用」「体質」「職業性(便意があっても排便できない職業の人)」「便意を抑制する習慣」などがあります。
 便秘の原因は幅広く、原因が異なれば治療法も違います。原因別に4タイプの便秘に分けられます。
①大腸や直腸の働きの異常による「機能性便秘」
最も多いタイプの便秘です。生活習慣やストレス、加齢などの影響を受けて、大腸や直腸・肛門の働きが乱れる結果、起こります。よりわかりやすいように、さらに三つに分けて解説します。
①-1 弛緩性便秘...大腸は、その内容物(食べ物の残りかす=便)をぜん動運動によってコロコロ転がし、少しずつ水分を吸収しながら直腸へと運びます。大腸を動かす筋肉が緩んで、ぜん動運動が弱まると、なかなか便が運ばれないために便秘になります。高齢者が便秘しやすい原因の一つです。また、朝食をとらなかったり、運動不足などの乱れた生活習慣による便秘も、これに該当します。
①-2 痙攣性便秘...大腸のぜん動運動に連続性がなくなり、便の通過に時間がかかり過ぎて起こる便秘です。ストレスの影響が強いと考えられています。
①-3 直腸性便秘...運ばれてきた便が大腸から直腸に入ると、直腸のセンサーが働き便意を催します。そこでトイレに行くと、ふだんは肛門を閉めている肛門括約筋が緩み、排便に至ります。ところが、便意を習慣的にがまんしていると神経の感度が鈍って、直腸に便が入っても便意を催さなくなります。女性が便秘しがちな理由の一つです。また最近、温水洗浄便座の水を肛門の奥まで入れるために神経の感度が鈍り、便秘になる人が増えています。
②便の通過が物理的に妨げられる「器質性便秘」
大腸がんや手術後の癒着、炎症性疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などのために、大腸の中を便がスムーズに通過できずに起こる便秘です。女性で、直腸の一部が腟に入り込んでしまう直腸瘤も、よくある原因です。このタイプの便秘では、まず元の病気を治すことが基本です。
③全身の病気の症状として起こる「症候性便秘」
甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症では大腸のぜん動運動が弱くなり、便秘がちになります。いずれも女性に多い病気です。女性の場合、病気とは別ですが、生理や妊娠中にホルモンの影響で便秘になりやすくなります。このほか、神経損傷や糖尿病の合併症などで、神経の働きが不調になった場合も、このタイプの便秘が起こります。
④別の病気の薬の副作用で起こる「薬剤性便秘」
抗うつ薬、抗コリン薬(ぜん息や頻尿、パーキンソン病などの薬)、せき止めなどは大腸のぜん動運動を抑えるので、副作用で便秘になることがあります。
慢性便秘症を来たす基礎疾患として内分泌・代謝疾患の糖尿病(自律神経障害を伴うもの)、甲状腺機能低下症,慢性腎不全(尿毒症)、神経疾患の脳血管疾患、多発性硬化症、Parkinson病、Hirschsprung病、脊髄損傷(あるいは脊髄病変)、二分脊椎,精神発達遅滞、膠原病の全身性硬化症(強皮症)、皮膚筋炎、変性疾患のアミロイドーシス、精神疾患のうつ病や心気症、大腸の器質的異常、裂肛、痔核、炎症性腸疾患、直腸脱、直腸瘤、骨盤臓器脱、大腸腫瘍による閉塞などがあります。
 また慢性便秘症を起こす薬剤として、抗コリン薬、抗コリン作用をもつ薬剤(抗うつ薬や一部の抗精神病薬,抗Parkinson病薬,ベンゾジアゼピン、第一世代の抗ヒスタミン薬など)、カルシウム拮抗薬、利尿薬、制酸薬、アルミニウム含有薬(水酸化アルミニウムゲルやスクラルファート)、消化管運動抑制薬、鉄剤など多数ありますので注意が必要です。しかしこれらの薬剤を服用しなければならない場合は便秘薬を服用しても、そちらを優先するのが良いと思われます。
日本人の常習性便秘の約2/3は弛緩性便秘といわれています。
 弛緩性便秘の予防や治療には、規則正しい日常生活・食事・排便・適度な運動を心がけましょう。栄養・食生活の面からは、以下に示すポイントについて出来ることから取り入れてみましょう。
食物繊維を多く含む食品を積極的に食べましょう。便量を増大させ、排便リズムを回復させます。食物繊維を多く含む食品は、たけのこ・緑黄色野菜・ごぼう・さつまいも・ふき・七分搗き米・大豆・ひじき・かんぴょう・切干大根などがあります。冷水・冷牛乳を適切に摂って、胃・大腸の反射を促しましょう。特に起床後の摂取が勧められます。牛乳も小腸ラクターゼ活性の低い人には効果があります。水分は便を軟らかくして排便を容易にする働きがあります。適度に脂質を摂りましょう。脂質に含まれている脂肪酸が大腸を刺激します。適度の香辛料やアルコール・酸味類・エキス分(肉・魚のうま味分)は、排便を促します。糖分の多い食品は、腸管内で醗酵しやすく大腸運動を高めます。糖分の多い食品には、はちみつ・砂糖・水あめなどがあります。パインアップル・いちご・りんご・牛乳・ヨーグルト・プルーン・梅干など有機酸を多く含む食品を積極的に摂りましょう。腸管内で醗酵し、ガスを発生させやすい豆類・いも類・かぼちゃ・くりなどを摂りましょう。米飯の難消化性でんぷんが食物繊維と同様の働きをします。白米より七分搗き米・胚芽米・玄米のほうが食物繊維の量も多くなり、より効果があります。食事量の確保も大切です。高齢者などは特に、食事量の過小が便秘の原因になっていることがあります。
これらのポイントに留意するとともに、水分を十分に補給しましょう。特に朝食を欠食しないようにして規則正しい食生活を心がけましょう。それから薬物に頼らず、栄養食事療法・運動療法を根気強く続けて自然な排便リズムを回復することが理想的なので、朝食後など決まった時間での排便を、たとえ便意がなくても毎日続けて習慣化させましょう。
 痙攣性便秘は、腸管の自律神経失調によりおこります。大腸の痙攣性収縮によって便の輸送が障害されます。大部分は過敏性腸症候群です。精神的な影響を受けやすく、消化器症状以外の不定愁訴や自律神経失調症状を伴うことがよく見られます。
便秘は間欠で若年者や中年女性に多くみうけられます。予防や治療には、規則正しい日常生活・食生活を心がけましょう。また、過労・ストレスが原因であることも多いため、それらの解消に努めましょう。ただし運動は避け、休養は十分にとりましょう。栄養・食生活の面からは、以下に示すポイントについて、出来ることから取り入れてみましょう。
 慢性便秘症の治療には保存的治療と外科的治療が用いられます。保存的治療では、食習慣を含む生活習慣の改善が行われ、奏効しない場合に、薬物治療や状況によっては摘便等の理学的治療が開始されます。現在までのところ、食習慣の改善を含めた生活習慣の改善による慢性便秘症の症状改善効果に関するエビデンスレベルの高い検討がなされていないのが現状ですが、副作用の面、安全性の面ならびに簡便さの観点を考慮すると、試行して問題となることはなく、慢性便秘症治療の第一選択治療として問題ないと考えられます。現在,薬物療法には数種類の異なった作用機序の薬剤が用いられています。薬剤に頼らず、生活習慣で改善するのが一番良いのですが、心臓や肺に疾患のある人は力んだり、息むことで病状の悪化を来すこともあり、適切に薬物を選択して治療することも肝要です。
 食事や運動で便秘の改善を図ることは大切ですが、サプリメントなどは副作用があることもあり、注意が必要です。