大動脈瘤

大動脈は心臓から出ている大血管でまず心臓から頭側に向かって出て(上行大動脈)、弓状にカーブを描いた後(弓部大動脈)、胸部の左後ろを下に向かって走行します(下行大動脈)。さらに腹部に入りへその少し下の高さで左右に分岐して両足の方向へ走行します。一般にこの分岐までを大動脈と呼びます。大動脈瘤は大動脈の一部がコブのように膨らんだ状態です。大動脈の壁は内膜、中膜、外膜の3層構造からなっており大動脈瘤も壁の構造から3つに分類されます。①真性大動脈瘤;瘤の壁にも通常の大動脈の壁構造が診られるもので嚢状、紡錘状のものがあります。②解離性大動脈瘤;大動脈の壁の解離し内膜に亀裂が生じて血液が入りこみ中膜が内外に分離して出来たものでほとんど紡錘状をしています。③仮性動脈瘤;瘤の壁に大動脈の壁構造がないもので外傷や感染など特殊な原因で形成されます。原因のほとんどは動脈硬化と高血圧です。
 多くの真性大動脈瘤は徐々に大動脈径の拡大が進むためほとんど自覚症状はありません。特に胸部大動脈瘤は胸の中のため自覚症状が出にくく、胸部レントゲンではじめて瘤が分かることもしばしばです。当院で高血圧の人に定期的に胸部レントゲンを撮っている理由の一つでもあります。場合によっては瘤が反回神経を圧迫して嗄声(声がれ)が出現したり、食道を圧迫して嚥下障害が出現して発見されることもあります。瘤の大きさが6cmを超えたり有痛性のもの、嚢状のものは破裂の危険性が高まり手術の適応となります。腹部大動脈瘤はへそのあたりにドキドキと拍動する瘤を触知して発見される事が多いのですが破裂しない限り痛みなどを伴わないので破裂してはじめて発見されることもよくあります。腹部大動脈瘤では5cmを超えると破裂の危険性が高まり手術の適応となります。診断は造影CTやMRIで胸部、大動脈の径が正常の1.5倍以上で大動脈瘤と診断できます。逆に解離性大動脈瘤では激痛を伴うことが一般的です。大動脈瘤の診断としては胸部単純レントゲン検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、DSA検査、血管造影などがありますがなかでも造影剤を使用したCT検査が最も有用です。
 真性大動脈瘤の治療としては大動脈瘤の進展を防ぐため血圧のコントロールを行いますが根本的治療ではありません。一般に血圧は120以下にコントロールします。手術療法は瘤の大きさで適応されます。胸部で5cm以上、腹部で4cm以上は手術適応ですが、もちろん患者さんの状態によって考慮されます。手術はかなり成績の良いものとなっています。
 解離性大動脈瘤の分類としてDebekey(ディベイキイ)分類とStanford(スタンフォード)分類があります。Debekey分類は解離の開始部位と解離の及ぶ範囲による分類でⅠ型.上行大動脈に始まり下行大動脈に及ぶもの、Ⅱ型.上行大動脈に始まり上行大動脈内にとどまるもの、Ⅲ型.下行大動脈から始まるものでこのうち胸部にとどまるものをⅢa、腹部にまで及ぶものをⅢbとします。Stanford分類は解離が上行大動脈に存在するかどうかが予後に左右するためこれによって分類したものでA型.解離が上行大動脈に存在するもの、B型は上行大動脈に存在しないもの、という分類です。解離性大動脈瘤の症状は激烈な胸痛、背部痛で移動性であることが特徴です。A型では前胸部痛、B型では背部痛が多く、解離の進行とともに頸部、上腹部、腹部、腰部、下肢に放散します。解離の部位により周辺への圧迫症状が出現し頚動脈を圧迫すれば意識障害、麻痺、上腸管膜動脈なら悪心、嘔吐、上腹部痛、下血、腎動脈なら乏尿、血尿、腸骨動脈ならば下肢痛、下肢のチアノーゼなどが出現します。いずれの場合でもひとたび破裂すれば出血性ショックとなります。解離性大動脈瘤が起こると充分な鎮静と、鎮痛が必要で血圧が高ければ出来るだけ早く下げなければいけません。手術は大動脈瘤の部分の血流を迂回させるバイパス回路を使用して動脈瘤を切除し、全てを人工血管で置き換えます。また大血管から分岐する重要な血管を再建します。手術では脊髄保護が重要でこれがうまくいかないと下半身麻痺などの神経障害を起こすことがあります。人工血管は数種類発売されていますが化学繊維を用いた網目状の構造になっており拒絶反応は発生しません。人工血管の耐久性は数十年とされていますので一度手術すると再手術はほとんどありません。最近カテーテルを用いたステント治療を行うこともあります。これは動脈瘤を血管内を通したカテーテルを用いてステントを拡張し補強するものですが、手術ほどの確実性がないことと再発があるのが問題ですが入院期間が短くなる利点があります。