不整脈


不整脈は非常に難しい疾患であり、内科医でも循環器専門医でなければ治療を誤ることがしばしばあります。一つ間違えば即、死亡に至ることもあります。不整脈の薬も慣れた医師でなければなかなか処方できません。しかし、治療を要しない不整脈もありますからあわてることはありませんし、多くの不整脈は治療可能です。
 不整脈の症状としては全く無症状のものからドキドキする、息が切れる、瞬間的に脈が飛ぶ感じ、ドキッとする、頭がぼーっとする、目の前が暗くなる、めまいや立ち眩みがする、失神するなど様々な症状があります。また原因は不明であることが多いのですが、基礎疾患として狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患や心臓弁膜症などがあることがあります。したがって不整脈のある人は必ず心臓超音波(エコー)検査を撮っておくことが必要です。また慢性的な疲労、過労、睡眠不足、精神的・肉体的ストレス、コーヒー、タバコ、栄誉ドリンク、、コーラ、日本茶などの摂りすぎでも誘発されやすくなります。
 まず、不整脈を知るためにはどうして心臓が動いているかを知らなければなりません。心臓は体から還ってきた血液を右心房から右心室を通して肺へ送り出し、肺できれいになった血液を左心室から全身に同時に送り出しています。つまり、肺と全身に同時に血液を送り出しているのですが、これは心臓が収縮するからこそ出来るのです。収縮するというのは心臓自体が筋肉で出来ているからであり、筋肉は電気信号で収縮し、また収縮したときに自ら電気を発します(これをとったのが心電図です)。この心臓に送られる電気信号を伝えるのが刺激伝導系といわれるもので洞房結節という電気を発するところから心臓全体に電気を伝えます。洞房結節で発生した電気信号は心房の筋肉を伝わって房室結節へと伝わり、この時心房が収縮します。さらに信号は房室結節からヒス束を通って右脚、左脚に分かれた後プルキンエ線維へと細かく伝わって心室全体に信号が送られ心室が収縮することによって血液が心臓から出ていくのです。
 そもそも人間の心臓の筋肉には普通の筋肉と違って自分で刺激を出す能力があります。これを自動能といいます。つまり人間の心臓の筋肉を取り出してくるとピクピクと痙攣、収縮します。しかし勝手にピクピクと収縮すると心臓全体としては旨く収縮できませんから刺激伝導系を早い刺激が伝わることによって全体が統一した動きが出来るのです。その中で最も刺激間隔が短いのが洞房結節といわれるところから出る刺激で、これが一般的に歩調取りリズム、すなわちペースメーカーとなります。運動したり、脱水になったり、発熱したりすると脈が速くなりますが、それらはこの洞房結節がすべてコントロールしていることになります。洞房結節で発生した刺激が心房の筋肉を伝わって房室結節へと伝わり、この時心房が収縮し心電図でP波が形成されます。さらに房室結節からヒス束を通って(心電図ではP-Qの間の時間)右脚、左脚に分かれた後プルキンエ線維へと細かく伝わって心室全体に信号が送られ心室が収縮する(QRS波を形成)ことによって血液が心臓から出ていくのです。
 不整脈の種類としては簡単に分けると脈の遅くなる徐脈、速くなる頻脈、脈が飛ぶ期外収縮があります。
1.洞性不整脈
 これは正常の心拍で脈が速くなったり遅くなったりするものです。つまり息を吸うと脈は遅くなり、息を吐くと速くなります。特に若年者でこの変化は大きいようですがこれは病的なものではなく正常なものとされ、自覚症状もありません。またスポーツマン心臓などで極端に脈が遅くなることがありますが、この場合も特に治療を要するものではありません。
2.期外収縮
 期外収縮というのは文字通り「期待外」の収縮という意味で本来次に来るであろう収縮(脈)に反して早めに脈を打つものです。その脈を打つ刺激がどこから出てくるかで心房性(上室性)と心室性に分類されます。
心房性期外収縮:異常な電気信号が心室より上の部分で起こるものです。したがって心室の収縮状態は正常と同じですので心電図ではQRS波(心室の収縮)は正常と変わりなく、P波が正常と違う形をしています。この場合、心室収縮が同じであるため心臓から出る血液量は正常とさほど変化がありませんので自覚症状がないことも多いようです。またこの不整脈は最もよくみられるものですが、高血圧、狭心症、弁膜症など他の疾患の結果として表れることも多いので原因となる元の疾患の治療が大切となります。
心室性期外収縮:この場合心室から異常刺激が出ますので心電図では正常ではないQRS波がみられます。2カ所以上から異常刺激が出れば2つ以上の形の違うQRSがみられます。自覚症状がないことが多いのですが症状がある場合は脈が飛ぶ感じ、胸部の不快感、胸の痛み(一瞬から1分以内)を感じることがあります。心室性期外収縮では正常よりも心臓が送り出す血液量が低下しますので脈が感じられず、脈が飛ぶように感じることがあります。これも数が少ない場合は問題ありませんが連発したりしますと心室頻拍といわれ意識消失などの重篤な症状として表れることがあります。(心室頻拍については後述)。ホルター心電図という24時間の心電図をみてその頻度、程度を観察することが多くLownの分類が用いられます。1:1時間に30個未満、2;1時間に30個以上、3;多源性、4a;2連発、4b;3連発以上、5;Ron Tと分類され、一般的に3度以上では治療が必要とされてます。このうち5度のR on Tというのは前の脈のT波上に期外収縮が乗るもので心室頻拍や心室細動といった危険な状態が誘発されるといわれています。
3.徐脈性不整脈
洞性徐脈
  規則的であるが脈拍数が遅いもので、多くは血圧の薬などによるものが多いのですが、症状がなければ特に問題となることはありませんし、治療の必要もありません。
洞停止
洞房結節が一過性に電気信号を発しなく
なるものです。徐脈が続き症状があるようならば治療の対象となります。
洞房ブロック
電気信号の発生が正常であっても心房に伝わらない状態です。
房室ブロック
 電気信号が心房は興奮させるが心室に伝わらないものでこれには1度、2度、3度があり1度は電気信号が伝わるのに時間がかかるだけのもの、2度は徐々に電気信号の伝わる速度が遅くなるWenkebach(ウェンケバッハ)タイプ(Mobitzモビッツ1型ともいう)と突然 伝わらなくなるMobitsⅡ型があります。3度は全く信号が伝わらないもので、心房と心室は別々に興奮します。Mobitz2型と3度の房室ブロックはペースメーカー植込の適応となります。これらは突然の心停止や失神発作の原因となります。原因としては心筋炎、リウマチ熱、動脈硬化、心筋虚血、迷走神経の興奮などが指摘されています。
洞不全症候群
 SSS(sick sinus syndrome)といわれるもので著しい洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック、徐脈頻脈症候群などを指します。これらで症状があるものはペースメーカー植込の適応となります。意識消失があれば緊急のペースメーカー治療の適応です。洞徐脈では心拍数は21~28/分となり、運動をしても心拍数が増加しません。特に徐脈と頻脈を繰り返す徐脈頻脈症候群ではペースメーカー植込が必要となることが多くなります。心拍数が低くなるとそれだけ心臓拍出量が減りますので、心臓のポンプとしての機能が低下し心臓ポンプ不全すなわち心不全となります。当然ペースメーカーの適応となります。薬物療法としては心拍数を増やす薬を使う方法がありますが、効果は一次的ですのでペースメーカー植込が基本的治療となります。

発作性上室性頻拍
 発作的に1分間に150~200回という速く規則正しい脈になります。脈が速いために動悸の他に心拍出量低下による血圧低下、気分不良を起こすことがあります。死亡することはありませんが早急に治療が必要です。ただ多くの場合は突然に発作が止まります。逆に規則正しい脈で脈拍数が150未満までであれば生理的な頻脈で危険のない頻脈といえます。
心房細動
心房が無秩序に興奮している状態です。不規則な興奮は1分間300~500にもなり心電図ではP波はありません。心房はブルブルと振るえている状態ですから心臓の補助ポンプとしての収縮がなく心拍出量が低下します。脈拍数のコントロールが必要ですが、発作性の場合は早急に治療すると洞調律に戻ります。ただし、脈が逆に遅くなる場合もあります。この場合、症状などがあればペースメーカー植え込みの適応となります。
心房粗動
 心房細動と違って心房は1分間250~400回で規則的な脈を打ちます。しかし心室にはすべての刺激が伝わりません。
心室頻拍
. 心室由来の刺激が連発するものです。動悸や、息切れ、意識消失などを起こします。したがって、緊急に治療が必要な状態です。
心室細動
 最も危険、重症の不整脈です。これは心室が細動、すなわち右図のようにブルブルと震えている状態ですから心臓は血液を送り出すことが出来ません。ほとんどの場合、血圧がなくなり意識を失います。放置すれば死亡します。原因としては心筋梗塞、狭心症などが最も多いのですが心筋症、弁膜症なども原因となります。

不整脈の検査
心電図
この検査はほとんどの人が受けたことがあると思います。心電図は心臓の興奮を体表面で測定するものですが、その波形の変化、大きさ、リズムで判定します。両手足に電極をつけ(右足はアースとなります)、胸部に6つの電極をつけます(V1~V6)。手足の誘導は心臓のベクトル(解剖学的に心臓は左下方向を向いている)の変化と心臓の下壁の興奮をみるのに使われます。詳細は専門的知識が必要ですので省略しますが、興味ある方はお尋ね下さい。
ホルター心電図
 小型の心電図をつけて帰宅してもらい体を動かしているときや寝ている間の24時間の心電図変化をみるものです。テープを24時間動かしますが、最近のものはICカードになっていますので心電計もかなり小型になっています。当院では4台のホルター心電図があり、いつでも測定できます。
携帯型心電計
 これは最近オムロンから発売された自分で心電図を簡単にみるものです。ホルター心電図のように細かいところは分かりませんが不整脈が出ているかどうかが分かります。ホルター心電図ではつけているときに症状がなかったり不整脈が出なかったりすることがありますが、たとえば1週間に一度しか発作が起こらないという人が動悸などの症状が出たときに自分ですぐに簡単に心電図をみることが出来ます。当院でもたまにしか発作が起こらないという人につけてもらっています。当院ではオムロンから委託されてこの心電図の解析を行っています。
心エコー検査
不整脈は心筋梗塞、狭心症、心筋症、弁膜症などの基礎疾患があって起こる場合があります。したがって不整脈の患者さんでは必ず心エコーをして他に疾患がないかどうかを調べる必要があります。また、抗不整脈薬の一部に心機能を抑えるものがありますので心機能が低下していていないか、心不全がないかを調べるためにも必要です。
運動負荷検査
 運動をしてもらって、心電図で不整脈が増えるかどうかをみる検査です。多くの場合、運動をして増える不整脈はあまり良くありません。この検査は無理矢理に運動をしてもらうので危険を伴うことがあります。当院では行っていません、というかほとんどの病院では最近は行わないのですが運動選手などでどれくらい出来るかをみるときに検査することがあります。多くは、ホルター心電図で十分です。

不整脈の治療
1.生活習慣の改善を
不整脈の治療の基本は生活習慣の改善です。特に夜更かし(睡眠不足)を避ける、ストレスを避ける事が大切です。タバコのほかにアルコール、カフェイン含有物(コーヒー、紅茶、ココア、日本茶、栄養ドリンク、コーラなど)を避けることも大切です。

2.薬物療法
 不整脈治療の中心となります。抗不整脈剤には各種薬剤がありますが、副作用の問題もあり必ず循環器科を標榜している循環器専門医で薬をもらう方がよいでしょう。漢方薬にも柴胡加竜骨牡蛎湯のように不整脈に有効なものがありますが、一般には西洋薬を用います。抗不整脈薬はⅠ群、Ⅱ群、Ⅲ群、Ⅳ群に分ける方法が最も一般的ですがこのうち多くの人に用いられるものはⅠ群です。これもⅠa、Ⅰb、Ⅰcに分類されています。Ⅰaとしてはリスモダン、ピメノール、アミサリン、シベノール、Ⅰbにはアスペノン、メキシチール、Ⅰcにはサンリズム、タンボコール、プロノンなどの薬があります。これらの薬をうまく使いこなせるには医師でも相当の熟練が必要です。Ⅱ群はβブロッカーといわれるもので高血圧にも用いられますが、交感神経の緊張による不整脈に有効ですが不整脈自体を抑えるというより頻脈を抑えるのに使用されます。Ⅲ群はアンカロンという薬で心機能が低下している場合に用いられますが、一般に使用頻度は低いもので薬の値段も異常に高いものです。Ⅳ群はカルシウム拮抗薬でへルベッサー、ワソランといった薬がありますが発作性上室性頻拍に用いられ高血圧や狭心症にも有効です。当院ではこれらの全種類を使用していますが、どの患者さんにどの薬がよいかは個々の患者さんで異なります。
 また心房細動などでは不整脈の心拍数を適当な数にコントロールするためのジギタリスや血栓を予防するための抗血栓薬(ワーファリン)を使用します。
 一般に抗不整脈薬が用いられるのは心室性期外収縮ではその頻度が多かったり連発がみられるものです。上室性期外収縮も症状があったり心房細動への移行が考えられるものでは投薬が必要です。心房細動では必ず薬を飲んでいなければなりません。また徐脈性不整脈では脈を速くする薬を使うことがありますが、一般的にはペースメーカー植込を行うことが多くなります。
3.ペースメーカー植込
不整脈のなかで脈が遅くなる房室ブロック、心房細動、洞不全症候群などでペースメーカー植込が行われます。これはペースメーカーという刺激発生装置を胸部の皮下に埋め込みそれから出るリード(電線)を心臓まで静脈の中を通すものです。ペースメーカーは細小のものでは500円硬貨より小さくなっています。心室のみを刺激する場合はリードは1本ですが、心房細動以外の場合は多くは心房と心室の両方にリードを入れるため2本のリードを入れるのが一般的です。手技自体は慣れた医師ならば安全に行えます。手術時間も約1時間程度ですが、私は最短25分という記録を持っています。ペースメーカーはリードを通じて心臓の拍動を感知し設定した心拍数より遅い場合に心臓を刺激して収縮させるものです。したがって設定した心拍以上に自己心拍数があればペースメーカーは作動しません。このため徐脈があまりなければペースメーカーの電池寿命はのびることになります。一般にペースメーカーの電池寿命は24時間フルに動いて7~8年とされていますが、多くの患者さんは10年前後電池が持ちます。また電池入れ換えは非常に簡単なものです。
4.アブレーション治療
 主に発作性上室性頻拍に用いられるもので図にある刺激伝導系以外の異常な刺激伝導系を足などの静脈から挿入したカテーテルによって高周波で焼ききるものです。これはどこを焼ききるかを見極めるのが大変で手技のほとんどがその同定に費やされます。約3時間程度かかることもありますが、正常の刺激伝導系を焼いてしまいペースメーカー植込をしなければならないこともあります。しかし、最近は成功率が非常に上昇しており成功すれば発作を抑える薬をもう飲まなくても良くなります。若年者や薬でコントロールするのが難しい人で行われます。