逆流性食道炎

食事をしてからしばらくすると、胸が焼けるようなことはありませんか。胃酸が食道の方へ逆流することによっておこるもので、食生活の欧米化、高齢化によって患者さんは増加傾向にあります。症状は人によって様々ですが、みぞおちから胸にかけてちりちり焼けつくような感じ、しみる感じがあります。また食べ物がのどにつかえたり、飲みにくい感じがしたり、のどがイガイガするという場合もあります。ゲップがすぐに出たり、咳き込んだり、締めつけるような胸の痛みがあることもあります。また逆に全く症状のない人も多く見られます。内視鏡検査で全く異常がなくてもこうした症状が強い場合はGERD(胃食道逆流症 gastroesophageal reflux disease)といわれ、治療の対象となります。GERDは食道炎ばかりでなく、耳鼻科疾患、呼吸器疾患を引き起こすことも明らかになってきました。食道内の酸の程度(pH)を測定しますと、全く内視鏡検査で異常のない人でも食後と睡眠中に胃液の逆流が証明されています。胃酸の逆流は食道下部の食道括約筋と横隔膜による締めつけが弱くなった状態でおこり、腰の曲がった高齢者に好発しますが、最近では食生活の変化からか日本人の胃酸分泌機能が亢進してきており若年者にも多くみられるようになっています。この下部食道括約筋の一過性弛緩がGERDの主原因です。胃のヘルニア(胃の一部が胸の方へ上がってしまった状態)では下部食道括約筋の圧が低下し逆流を来しやすくなります。胃酸ばかりでなく十二指腸液でも食道炎が生じ、その典型例が胃切除後の食道炎でアルカリ食道炎とも呼ばれますが、アルカリ逆流は酸逆流の存在下で2次的に食道粘膜障害を起こしていることが多く、症状出現もその半数以上が酸逆流によるものであることが報告されています。したがって、アルカリ逆流が存在する人でも胃酸を充分抑制することで逆流症の治療は可能です。診断は一般に内視鏡検査が行われます。胃透視検査でも逆流はわかりますが、食道粘膜がどの程度の障害を受けているのかは内視鏡検査でなければわかりません。
 治療法としては一般にPPI(プロトンポンプ阻害薬proton pump inhibitor)といわれる薬を中心とした制酸剤が用いられます。当院では主に値段が最も安く、効果の高いタケプロンを主に用いています。この薬の良いところは一日一回の服用で24時間持続的な胃内のpHを上げることです。またH2ブロッカー(ガスター、ファモチジン、ラニチザン、ザンタックなど)はその酸分泌抑制力はPPIには及びませんが、軽症の患者さんや維持療法として有用で、最近胃排出機能を亢進させるという報告もあり有用な薬です。その他消化管運動改善薬が食道下部括約筋の圧を上昇させたり、胃排出能を亢進させて逆流を減少させることから用いられます。
GERDの外科治療としては噴門形成術が行われます。これは最近では腹腔鏡で行われることが多くなっています。噴門とは食道と胃の境のことで手術成績は以前に比べて最近は格段に上昇しています。特にヘルニアが高度の場合は手術療法が考慮されますが、場合によっては食道の通過障害が起こることもあり、薬で治療できない場合や合併症を伴っているような場合に考慮されます。
 日常生活で大切なことは姿勢や体位です。腹圧が上がると逆流が起こりやすくなりますので、いわゆる“りきむ”ような重いものを持ち上げるときの前屈み、便秘の時の排便、腰をかがめての作業は避けなければなりません。また服装も、ガードル、コルセット、帯、ベルトなどで腹部を強く圧迫しないことも大切で、また肥満も腹圧が上昇するので避けなければなりません。就寝時は枕を高くしたり、上半身を高くした体位をとるようにします。食事も、避けなければならないものとして就寝前の食事、脂肪食、甘いもの、香辛料、コーヒー、緑茶、チョコレート、タバコ、アルコール類などがあげられます。コーヒー、緑茶はそのカフェインが胃酸分泌を亢進させ、アルコールは食道の蠕動低下と食道下部括約筋の圧低下を来します。