深部静脈血栓症

深部静脈血栓症(Deep Venous Thrombosis:以下DVT)は、深部静脈に血栓(血液のかたまり)が形成される病気です。血栓は、静脈の損傷や血液の凝固を引き起こす疾患により形成される場合や、何らかの原因で心臓に戻る血流が遅くなることで形成される場合があります。血栓によって、脚や腕の腫れが生じることがあります。血管を流れる血液は、一般的には凝固しません。足の筋肉の動きと静脈は、血液の流れを促進するために圧搾されます。DVTは、特定の状況下、すなわち血液が正常に循環しなかったり、凝固したりする場合に発生する可能性があります。しなしながら血栓は稀に明白な理由無しに形成してしまう場合があります。DVTのリスクを増加させる要因をいくつか挙げます。①静脈の内側の損傷;手術(特に整形外科や脳神経外科)、転倒、炎症、および薬品は、静脈への傷害を引き起こすリスクを高めます。②動かないこと;運動不足により血流が遅くなります。例えば、手術後や病気で長い間寝ている間や、長距離旅行中やその後、骨折してギブスをはめている間などです。遅い血液の流れは、血栓を作り易くします。③濃度の高い血液;第V因子ライデン変異、およびプロテインCおよびプロテインSの欠損などのいくつかの遺伝性疾患によって血液がより容易に凝固することがあります。家族の中にDVTを患うものがいる場合、遺伝の可能性があるため、気をつける必要があります。ある種の障害は、例えば抗リン脂質抗体症候群、真性多血症、本態性血小板血症は後年になって出てくる場合もあります。④薬学治療;妊娠コントロールピルや、ホルモン代替療法は、エストロゲンが血流を遅くさせるためDVTのリスクを高めます。化学療法のドラッグも同様の副作用があります。⑤病状;以下のようなコンディションは、血栓発症のリスクを高めます。㋐妊娠:妊娠中に、骨盤の下の静脈内の圧力が増し、血液濃度が濃くなります。リスクは、出産後最長6週間継続します。㋑加齢:60歳以上の人は、DVTの可能性があります。㋒がん:多くの癌は、血液の凝固を増強する物質を上昇させます。時々DVTは、癌の診断に先行する場合もあります。㋓心不全:弱い心臓は、普通の心臓と比べて効果的に血液をポンプすることができません。そして血液を溜めてしまい、血液が簡単に凝固してしまいます。㋔体重過多または肥満:太りすぎの人々は、骨盤静脈と足に高い圧力を持つため血栓のリスクを高めます。㋕侵襲的なデバイス:静脈カテーテルを介して液体や薬を受けている患者は、正常な血液の流れの妨害や、静脈の損傷により、静脈の表面や深部に血栓ができ易くなります。㋖腎臓疾患:ネフローゼ症候群、大量のタンパク質が腎臓から漏れる障害を持つ人は、動脈と静脈内に血栓を発症する可能性が高くなります。㋗DVTの既往症:過去にDVTを患ったことがある人は、将来に再発する可能性が高くなります。㋘喫煙:喫煙は血液の循環に影響を与えるため、DVTのリスクを増加させます。
深部静脈血栓症(Deep Venous Thrombosis:以下DVT)の患者の約半数は無症状です。ほとんどの深部静脈血栓はふくらはぎの小静脈に起こり,無症状で決して発見されません。このような場合には、胸の痛みや息切れが肺塞栓症による異常を知らせる最初の症状となります。DVTは、静脈、特に大腿静脈などに血栓が生ずる疾患です。足の深部にある静脈は、血液を心臓に届ける太ももやふくらはぎの大静脈です。血栓が出来たとき、静脈内の血液の流れが部分的または完全にブロックされ、痛みや腫れを引き起こします。それは生死に関る可能性があるため、医師の診察をすぐに求めるべきです。血栓が剥がれ、静脈内を流れ、肺動脈に達し詰まります。これが肺血栓塞栓症です。慢性深部静脈不全では一部の血栓は、瘢痕(はんこん)組織になって治ることもありますが、この瘢痕組織は静脈の弁に損傷を与えることがあります。弁が損傷すると静脈は正常に機能できなくなり、体液がたまって足首がむくみます(浮腫)。静脈が詰まる位置が高いと、すねや太ももまで浮腫が広がることがあります。立っているときや腰掛けているときには、血液は心臓に達するために重力に逆らって上に向かって流れなくてはならないため、1日の終わりに近づくほど、むくみがひどくなります。脚を水平にすると静脈内で血液が流れやすくなるため、夜間はむくみが解消されます。下肢の太い静脈の血流が遮断されると、ふくらはぎが腫れて、痛み、圧痛、熱感などの症状が現れることがあります。足首、足、あるいは太ももが腫れる場合もありますが、これはどの静脈に血栓が形成されたかによって異なります。傷害を受けた静脈が破壊されることがあります。その場合、脚はいつもむくんだ状態になり、1日の終わりになると悪化します。足首の内側の皮膚が荒れてかゆくなり、赤みを帯びた茶色に変色します。この変色は皮膚内の拡張した静脈から赤血球がしみ出てくることが原因です。変色した皮膚は傷つきやすく、ひっかいたりぶつかったりしただけでも傷ができて潰瘍になることがあります。また、静脈瘤が形成されることもあります。潰瘍の痛みに加えて、立ったり歩いたりするとズキズキする痛みが生じます。脚の遠位のDVTでは,軽い発熱症状がみられることがあり,DVTは,特に術後の患者においては,原因不明熱の原因となることがあります。肺塞栓症が起こった場合,症状には息切れおよび胸膜炎性胸痛があります。
DVTは,上肢(DVTの症例の4〜13%),下肢,または骨盤部の深部静脈に生じえます。下肢のDVTは,恐らく血塊の負荷がより高いためか,肺塞栓症(PE)をはるかに起こしやすいです。大腿部の表在性の膝窩静脈および大腿静脈ならびにふくらはぎの後脛骨静脈が最も罹患しやすいです。ふくらはぎの静脈のDVTは大きな塞栓の源とはなりにくいですが,大量の小塞栓を繰り返し引き起こしたり,近位の大腿静脈に移行したりし,そこから肺塞栓症を引き起こしえます。DVT患者の約50%は潜在性の肺塞栓症を有し,肺塞栓症患者の約20%は明らかなDVTを有するとされています。